新燃岳マグマ噴火から10年 火山活動・防災は今
10年前のきょう、2011年1月26日。霧島連山の新燃岳でおよそ300年ぶりとされる本格的なマグマ噴火が発生しました。あれから10年、火山災害への備えも進む一方で危機感の”風化”を懸念する声もあります。飯伏記者の報告です。
10年前に新燃岳で発生した本格的なマグマ噴火。噴煙は火口から7000メートルの高さまで上がり、2日間の噴出量はおよそ7000万トンと、桜島の年間噴出量の10倍の規模に達しました。
山頂周辺に登山客がいなかったため、死者はなかったものの、宮崎県側では多量の軽石や灰が降り、鹿児島県側でも空気の振動=空振で100か所近くのガラスが割れるなどの被害出ました。
新燃岳はその後も噴火を繰り返し、2018年3月には、火口の北西側から溶岩の流出も見られました。
2018年6月以降、噴火は観測されていませんが、火口直下を震源とする火山性地震が増減を繰り返し、噴火警戒レベルは現在、2の火口周辺規制となっていて、火口からおおむね2キロで警戒範囲が設定されています。
(鹿児島大学・井村隆介准教授)「中央部のところは若干、噴気が出ている根元のところあたりに黄色い硫黄の結晶が出ているのがわかります。ということは地下からのガスが供給されていると考えられる」
今月15日に上空から撮影した新燃岳の火口です。
ヘリコプターに同乗した霧島火山を研究している鹿児島大学の井村隆介准教授は、一見、静かに見えるものの、次の噴火の準備が進んでいる状態だと話します。
(井村准教授)「新燃岳は表面的には静かに見えるが、地下にはマグマが入っている状態が分かっています。2011年の噴火で1回出て、それと同じぐらいの量がいったん溜まって2018年でそれが出て、また3回目の弾が込められたような状態が今の状態ですので、この静かな状態は、新燃岳は活火山ですので次の噴火の準備をしていることになります」
そして、新燃岳だけでなく、えびの高原の硫黄山や御鉢など、火山の複合体である霧島連山全体の活動に注意を払うべきと話します。
(井村准教授)「2018年にも新燃岳が噴火してこれから先ですね、またえびの高原の方が活動的になるのではと、ちょっと気にしています。いつか噴火するのが活火山ですからそう考えると、やはり準備をしているような状態だと思います。そういう状況にあるんだということを知った上で登山などを楽しんでいただきたいと思います」
本格的マグマ噴火から10年。火口から3.2キロの距離にあり、当時、噴石など6センチ積もった高千穂河原では、噴火に備えた訓練を実施。サイレンや避難壕の設置などハード面の対策も進みました。
また、2011年の噴火では宿泊客が減少し宿泊施設の閉鎖も出るなど、観光関係でおよそ19億5000万円の損失が出ました。地元の観光関係者は火山情報の提供などの取り組みを続けています。
(霧島市観光協会・徳重克彦会長)「ホームページで常にホテルの皆さん方が(噴火情報を)表示・紹介している。常に噴火が起きる可能性があるということでそれぞれが対応している」
ただ、一方で登山客の意識には差も出てきているといいます。
(登山客)「さすがに変わりましたね。常に高千穂からも見えるので自分なりにも判断するが、地震の回数とかはよくチェックしてから登るようにしている」
(登山客)「初心者なので、心がけていることは、食料・飲み物・寒さ対策ぐらいですね」
(井村准教授)「今は誰もヘルメットとか使って登っていない。“生きている山”に登るという部分が、一般の人は薄れてしまっている。そのあたりがまずいと思う」
災害の”風化”を懸念する声は地元でも。
高千穂地区の公民館長・中村信男さんは、10年前の噴火を受けて始まった地域の訓練が、ここ数年、行われていないと心配しています。
(高千穂地区 中村信男公民館長)「ちょっと忘れているのが現実。10年を機会に準備するのも今後の課題」
10年前の噴火を風化させず、いつか起きる「次の噴火」にどのように備えるのか?
学校や行政などだけでなく、地域を巻き込む形で訓練や防災教育を行うなどして、防災意識を高めていくことが必要だと専門家は話します。
(井村准教授)「実際雨が降って避難勧告が出たときに、避難しないのは大人ですよ。大人が子供を連れていかないから子供の命が奪われる。そう考えると学校現場での防災教育は大事だが、大人に向けての防災教育も大事だろうと思います」