津波防災特集・川を遡上する津波への備え

5日の津波防災の日を踏まえ、今月は南海トラフ地震による大津波を想定した訓練が各地で行われました。

しかし、12年前の東日本大震災で川を数キロさかのぼり被害を拡大させた津波への意識や備えは必ずしも高くありません。30日は専門家も課題と指摘する、川を遡上する津波に焦点を当てます。

県内でもっとも南海トラフに近い志布志湾。海から500メートルの全校児童61人・大崎町の大丸小学校です。
この日、南海トラフ地震を想定した訓練がありました。
1年生の教室では地震発生の放送を受けて子どもたちが机の下に身を隠し、揺れが収まった合図とともに、1.5キロ離れた標高23メートルの高台に走ります。

避難は13分で完了しました。

子どもたちは・・・

大丸小学校の避難には課題もあります。ルートの途中にある、学校より標高が低く、浸水リスクが増す塩入(しおいり)川と田んぼです。

遠い南海トラフで起きる地震では津波が襲うまで49分あるとみられていますが、より震源が近い場合、学校は高台避難を断念し、標高19メートルの屋上に上がる計画です。

(大丸小学校 秦一成校長)
「時間がないようなときには、屋上に上がってくるように思っている。子どもたちは日本の未来。大川小学校の方々の状況を話して何かがあっても自分が命をつないでいくということを子どもたちには分かってもらいたい」

秦校長の念頭にある、12年前の東日本大震災で、学校管理下最悪の被害となった宮城県の大川小学校です。東北最大の1級河川・北上川の河口から4キロ遡上した10メートルもの津波が小学校を飲み込みました。
小学校があった釜谷(かまや)地区には当時、住民らもあわせ、およそ300人がいましたがそのうちの9割、子どもたち74人も含む269人が犠牲になりました。

川が持つ、地震・津波を始め、高潮などのリスク。
今月は志布志湾にそそぐ肝属川を始め全国各地の1級河川で地震訓練がありました。

中でも国内最大のリスクが想定される地域が。
関東大震災からことし100年を迎え、首都直下地震に備える東京。周辺に軟弱地盤を抱える荒川放水路です。

関東大震災の翌年に水が通され、来年100年の節目を迎えます。一帯は、大量の地下水のくみ上げで土地の高さが海よりも低い・海抜ゼロメートル地帯が広がり、浸水リスクがある116平方キロに176万人が暮らしています。


東京都は地震による津波の高さを最大2.6メートルと想定し、防潮堤などで守れるとしますが、ひとたび浸水すれば、被害は甚大です。

(荒川下流河川事務所・渡辺健一副所長)
「ゼロメートル地帯を流れる河川は、日頃から排水をして海面より、水を低くしなければいけない。東京都の排水機場がずっと稼働している。万が一大きな地震があって稼働できなくなった場合には大変な被害が起きる。排水ポンプ車をもっていって手伝うなど検討は進めている」

国の荒川下流河川事務所では現在、堤防の強靭化や、鉄道橋を架け替え、周辺より低くなっている堤防をかさ上げし、浸水リスクを減らす取り組みなどを進めています。

一方の鹿児島市。
川の津波リスクは、8・6豪雨から30年を迎えた60万都市の心臓部を流れる甲突川でもひとごとではありません。専門家は河口から4キロの城山ちかくまで浸水のリスクはあると見ます。

(鹿児島大学(地震地質学)井村隆介准教授)
「海の水をこの狭い川に閉じ込めようとすると当然(幅が)足りなくなる。そうすると(津波の高さが)5メートルだったものが川に入ると10メートルということになる。新上橋のあたりまでは満潮になると水が停滞するぐらいの量がある。そこに津波がやってきたら、さらに2メートル3メートル、(津波が)入ってくるということ」

これは、桜島・大正噴火の際の地震で、現在の鹿児島アリーナ近くの甲突川の堤防に亀裂が入ったようすです。


もしもこのとき津波が起きていれば・・・さらに近くの山で土砂崩れも重なれば・・・井村准教授は過去の災害に目を向け、自分が住む場所のリスクに思いを巡らすことが重要と訴えます。

(鹿児島大学(地震地質学)井村隆介准教授)
「軒並み地震の揺れによって崩れている可能性もある。後ろは崖があって土砂崩れの心配がある。前は川があって洪水の心配がある。津波の心配があるというような土地が鹿児島。そういうことが起こったことが大川小学校から学ばなければいけないこと。考えてもらえるきっかけになるといい」

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