避難情報の課題
シリーズ地域防災です。今月8日にかけての記録的豪雨では、鹿児島市で最大でおよそ14万人に避難勧告が出されました。
広い範囲で避難勧告や避難準備の情報が出され、「どうすればいいのだろう?」と思った方も多いのではないでしょうか。
こうした避難についての情報をどう受け止め、自分たちの命を守るのか?避難をめぐる現状と課題を岩崎キャスターが取材しました。
今回の西日本を中心とした豪雨災害は死者が180人を超えるなど甚大な被害が出ています。
7日には桜島で住宅裏の土砂が崩れ、住宅を直撃し、84歳の夫婦2人が死亡しました。
地質学や防災について研究している鹿児島大学の井村隆介准教授です。桜島の現場を11日調査しました。
(井村隆介准教授)「崩れているがけは急な斜面。この50年くらいの桜島の火山灰が急な斜面でも積もる。それが雨で流れて、下まで流れ下った。」
現場付近は、県が「土砂災害警戒区域」に指定している場所でした。
また、土砂崩れが起きた時、鹿児島市は全域に避難準備の情報を出し、高齢者や体の不自由な人は、避難を始めるよう呼びかけていました。
亡くなった夫婦は、近くに住む親戚から避難を勧められましたが、それを断り家にいたといいます。
(井村隆介准教授)
「(亡くなったのが)高齢ということで動きが鈍い部分がある。体力的なところ。もう1つは、今までそんなことはなかったという正常性バイアス。」
正常性バイアスとは、自然災害など何らかの被害が予想される中で、「自分は大丈夫だろう」と危険性を過小評価することを言います。
避難の呼びかけがあっても人が避難しないのは、この正常性バイアスが原因のひとつとみられています。
鹿児島市ではどうだったのでしょうか?
鹿児島市では今回の豪雨で、平年7月1か月分のおよそ6割となる197ミリの雨が4日間で降りました。
市は、土砂災害などの危険があるとして、避難情報として7日午前に全域に避難準備の情報を発表。市民に避難の準備と、高齢者には避難を始めるよう呼びかけました。
さらに、災害による人的被害のおそれがあるとして住民に避難を呼びかける避難勧告を、7日夕方に磯・竜ヶ水地区、新川流域、桜島全域に、8日午前には伊敷や吉野などの地域、あわせておよそ14万人に対し発表しました。
(鹿児島市危機管理課中豊司課長)「空振りをおそれず幅広く避難勧告を出すべきではないかということで広く出した。」
鹿児島市は市内87か所に避難所を開設。しかし。
(岩崎キャスター)
「こちらは伊敷地域に開設された避難所の1つ。避難した人は24畳ある和室で時間を過ごすことになっていた。鹿児島市は約14万人に避難勧告を出したが、実際に避難した人は約60人。」
今回避難勧告が出された伊敷地域の下伊敷3丁目です。
県が指定する「土砂災害警戒区域」に囲まれた住宅街です。
(伊敷地域の住民)「そこが1回崩れたことがある。大きな木があるから崩れてこないか心配するが、なかなか避難まではしない。」
(伊敷地域の住民)「避難しようと思わなかった。もう少し様子を見ようという感じ。」
(伊敷地域の住民)「よその県の災害は気になるけど、自分の所はないだろう。その時にならないと分からないだろう。」
一方で、住民からは市からの避難情報の発表方法についてこんな声が聞かれました。
(伊敷地域の住民)「伊敷でもどこが危ないか分からない。広いから伊敷も。」
鹿児島市は、観測地点ごとの1時間雨量や土壌の中の水の量などをもとに、避難準備の情報や避難勧告を発表します。
そして、さらに切迫した状況で災害が確実に起きると判断された場合、避難指示が出されます。
しかし、発表は基本的に伊敷や桜島など広い地域ごとになるのが現状です。
(鹿児島市危機管理課中豊司課長)
Q.地域を細分化して避難勧告は出せないか
「それは理想。今は幅広く出す状況。」
専門家は、広い範囲に一律に出す今の避難情報の出し方は検討が必要とします。
(井村隆介准教授)「広い範囲で吉野地域みたいに出たら『うちも避難しないといけないの?ハザードマップでも白いエリアだけど』という話もある。市内全域、県全域に出す情報はもう少し考えなければいけない。」
一方で、川の近くやがけの近くなど住む場所でリスクはそれぞれ異なり、住民も周囲の環境を知り、備えなければならないと訴えます。
(井村隆介准教授)
「個人で避難しなければいけないタイミングや1番適切なタイミングは変わってくる。事前に出されている街の防災情報とその時に出される情報で自分で判断して逃げなければいけない。」
災害から命を守るため、どう情報を生かすのか?行政、住民ともにあらためて考える必要があります。