国連が掲げた持続可能な開発目標=SDGs、17項目のうち12番目の目標「つくる責任つかう責任」について考えます。こちらの数字、推計50万トン。環境省が発表した、2020年度に国内で廃棄された衣類の量です。
衣類の大量廃棄が問題となる中、着なくなった着物を何度でも生まれ変わって循環する服、「環服」にしようと、霧島市の夫婦が取り組んでいます。
シルエットが美しいワンピースに、おしゃれなセットアップ。さらにはクールな羽織まで。これらの服はどれもほどくと長方形の反物になり、ワンピースはセットアップに、セットアップは羽織へと用途に応じて何度でも形を変えることができます。使われなくなった着物で作られていて「循環する服」という意味の「環服」と名付けられています。
(佐藤孝洋さん)「形になって喜んでもらえるのは嬉しい。それがやりがいというか楽しみ」
環服の生みの親、霧島市の佐藤孝洋さん(34)です。2年前、妻の友佳子さんとともに「最中」というチームを立ち上げ「環服」作りを始めました。おしゃれなデザインと、形を変えながら長く使い続けられるサステナブルなコンセプトが注目を集め、海外からも注文があります。
(佐藤さん)「形自体に飽きてしまってずっとハンガーにかかってあることもなくなるかもしれないし、自分が着ていたものを別の方に譲るときに違う形にして渡すことも出来る。いろんな可能性を秘めていると思う」
幼いころから服に興味があったという佐藤さん。23歳で織物会社に入社し、生地を織ったり染めたりする仕事をしていましたが、そこで目の当たりにしたのは、着物が大量に廃棄されている現状でした。
(佐藤さん)「2〜4か月くらい、手織りで織るものは時間がかかるものなのに、それが評価されないままに、着物としては着る人が減ってきていたり廃棄されてる中で、文化自体は継承していけないと思った」
生活様式の変化もあり、特に需要が落ち込む着物の文化をどのように守っていくのか?佐藤さんが着目したのが着物の「かつての在り方」でした。
着物はほどくと長方形の反物に戻るため、かつては着なくなった着物は反物の状態に戻し、座布団など別のものに作り変え、長く使われました。生地を最後まで大切に使うという着物本来の在り方を踏まえ、現代的なデザインでありながらほどいたら反物に戻り何度でも形を変えられる「環服」を生み出したのです。
(佐藤さん)「先代が築いてきた技術や考え方を今の人たちでも多分享受できるし、着物の在り方を通して社会の課題や、社会に接続している感覚。着物と地繋ぎな状態で新しい形を作ることにとても意味があると思っているし、文化を継承するための鍵なんじゃないかなと思って」
佐藤さんはこの日、高齢で着る機会が減った母親の着物をもらってほしいという人を訪ねました。
(森愛子さん)「自分では扱えないものをおもしろい形にして世に出してくれて、それを喜んで着てくれたり使ってくれる人がいると思うとすごく良いこと」
森さん自身も以前、母が愛していた着物を自分用のセットアップに作り変えてもらい愛用しています。
(森さん)「自分の家族が大切にしていたものを自分も改めて大切にすることができて、すごく嬉しい」
(佐藤さん)「家族の絆も少し取り戻せてるんじゃないかなって」「捨てるとか売る以外の選択肢を作れていることが嬉しいし(活動を)やっていて良かった」
佐藤さんのもとに寄せられる、かつての持ち主の大切な思い出が刻まれた着物たち。丁寧にほどいていき、1時間半ほどかけて反物に戻します。そして、ミシンに向かうことおよそ1時間。着物は、おしゃれなバッグに生まれ変わりました。
(佐藤さん)「生地自体がまだまだ使えるものなので、使ってもらえたら嬉しい」
この日、鹿児島市で佐藤さん夫婦が作った「環服」の展示販売会が開かれました。
(訪れた人)
「昔の人が大事な思い入れを持って作っているものなので、それを次の世代に残すっていう試みは素敵な取り組みだと思う」
「時代に応えている感じがするというか。古いものを使っているんだけど、未来につながっている感じがする」
使われなくなった着物に新たな命を吹き込み続ける佐藤さん。持続可能な社会を目指すだけでなく、着物の文化や魅力の再発見につながればと、願っています。
(佐藤さん)「日本の織りや染めの文化はものすごく価値があることだと感じてて。それを再認識してもらって、誇りを取り戻すというか、着物の生地っていいんだなっていうことを改めて知ってもらってもらえたらいいなと思う」
佐藤さん夫婦の環服は、あす29日から11月1日まで鹿児島市のマルヤガーデンズで行われる企画展「鹿児島の織りと染め」で展示販売が行われます。