屋久島世界自然遺産30年 ガイドが見た「自然との共生」の模索
屋久島が世界自然遺産に登録されて来月で30年を迎えます。登録により、貴重な自然の保護が求められる一方で、観光客が大幅に増え、自然保護と地域振興の両立が課題となってきました。現状を、23日と24日お伝えします。23日はガイドが見てきた「自然との共生」です。
屋久島の苔むす森が見られる人気のスポット「白谷雲水峡」
ガイドを35年続けてきた松本毅さん(66)です。世界遺産に登録される前から森を見続けてきました。
(ガイド 松本毅さん)「屋久島は花崗岩が隆起して高い山ができた。この隆起がなく、山が低いと、今のような自然はなかった」
屋久島は海底のマグマ溜まりが冷え固まってできた花崗岩が隆起してできた島で、九州最高峰の宮之浦岳は2000メートル近くになります。
岩の塊のような島は土壌が少なく、植物が育つには厳しい環境ですが、山岳部で年間1万ミリにもなる雨の多さが苔を育み、土に代わって水を蓄えます。松本さんは、こうした森の成り立ちから解説します。
(ガイド 松本毅さん)「あちらの岩の上を見ると、岩の上に森ができている。あそこには腐葉土がわずか15~20センチしかないが、張り付いている」「杉にとってはあまり良くない条件の中で、ひたすら耐え忍んで、ゆっくりゆっくり成長していく。そうすると腐りにくい、長寿の木になる」
屋久杉が一般的な杉より長生きできるゆえんです。こうした杉や、標高ごとに違う多様な植生が評価され、1993年に屋久島のおよそ2割が世界自然遺産に登録されました。
すると、島を訪れる観光客が急増。2007年には登録時の倍の年間40万人に達しました。
問題になったのが、縄文杉への一極集中です。樹齢2000年以上とされる「島のシンボル」を見ようと、観光客が殺到。登山道はごみが散乱し、屋久杉の根は踏み荒らされます。登山客のし尿の処理も追いつかない事態になりました。
松本さんは世界遺産登録の6年前に屋久島に移住し、ツアー団体「YNAC」を立ち上げていましたが、じっくり森を見てもらいたいと縄文杉へのツアーはやめ、森でゆっくり楽しむツアーや川や海での自然体験に力を注ぐようになりました。
(ガイド 松本毅さん)「1本の大きな杉を見に行くのでは、木を見て森を見ずになる。縄文杉は森が育てた1本の木。縄文杉を育てる森ってどんな森なんだ。そこを見てほしいという思いがあった」
一時は入山規制も検討されましたが、観光客が減る懸念から実現には至りませんでした。町が去年、観光客に行ったアンケートでも、6割の人が「縄文杉」を訪問先に挙げていて依然根強い人気です。
それでも松本さんは、縄文杉以外にも観光客の自然の楽しみ方が広がってきていると手ごたえを感じています。
(埼玉からの観光客)「(屋久島は)2回目です。前は縄文杉を見たが、こちらは川の水がきれいで、苔や植物をゆっくり見られたので良かった」
(ガイド 松本毅さん)「観光客も世界遺産だから大事にしなければいけないという意識が非常に強い。山を歩いて分かると思うが、ごみが一つも落ちていない。これはすごいこと。観光客も意識して、ガイドも常に意識して(自然が)守られている」
(YNACメンバー 市川聡さん)「こちら側が入口。茅葺の竪穴住居」
春牧地区にある横峯縄文遺跡です。竪穴住居跡や土器など3000年以上前に自然と共生していた人たちの暮らしの痕跡が見つかっています。近くに竪穴住居を復元したのは、松本さんと同じYNACのメンバー市川聡さん(62)です。
(YNACメンバー 市川聡さん)「自然をいかに利用して生活するかは、そんなに縄文時代の遠い昔の話というより、今ここに住む高齢の人が子どもの頃は、まだ実際の技術として生きていた。それが今消えようとしている」
町などは2012年から里の歴史や文化を紹介する里めぐりツアーを始めました。観光客を分散させつつ地域振興を図るのが狙いで、現在、26ある集落のうち10の集落がツアーを企画しています。
(YNACメンバー 市川聡さん)「ここに留まっているのが、屋久杉を運び出していた森林鉄道の台車」「かつては屋久杉を切ることによって賑わっていた場所が、いまは観光の玄関口になっている。この奥に縄文杉などへの登山口があり、産業としても、ここを起点に移り変わっていることが偲ばれる場所」
市川さんが里めぐりツアーで伝えたいことは、屋久島が歩んできた「自然との共生」の歴史です。世界遺産の森は、大規模な開発を生き抜いた森だからです。屋久杉は江戸時代は年貢代わりに伐採され、戦後復興で木材需要が増えると大量伐採の時代を迎えます。自然保護運動の高まりを受け、伐採が禁止されたのは1980年代になってからでした。市川さんは松本さんらと私設ミュージアムを作り、そうした歴史も含めた「自然との共生」を伝えています。
(YNACメンバー 市川聡さん)「決して美しい話だけではない、人と自然の関わりは。あるときは戦いだったり、あるときは搾取だったり、いろんなことがあったと思うが(屋久島は)その先にどういう道を見つけていくかを考えることができる場所」
これまで森を守るために木道の整備や入山協力金制度の導入などが取り組まれてきましたが、し尿の処理方法や入山規制など課題も残されたままです。
(ガイド 松本毅さん)「最初から(課題を)予想していたわけではないので、どうしても後手後手に回った。それはある意味仕方なかった。少し後手に回ったけれど、何とか(自然を)守りながら観光が定着してきた。30年でいろいろ悩みながらやってきた一つの成果にはなっていると思う」
この30年の経験を次にどう生かしていくのか、「自然との共生」を巡る模索は続きます。