交通事故の2.5倍の人が亡くなる「入浴死」 リスク知らせる「入浴時警戒情報」発表はじまる

入浴中やその前後に脳梗塞や心筋梗塞などで亡くなる浴室内突然死、いわゆる入浴死を防ごうという入浴時警戒情報の運用がきょう1日から始まりました。

入浴時のリスクを翌日の予想気温をもとに危険、警戒、注意の3段階で予報するもので、鹿児島大学大学院・法医学分野がMBCウェザーセンターと連携して発表します。

あす2日は県内全域で注意となっています。これから入浴死が増える冬場を迎えますが、情報をどのように生かせばいいのでしょうか?

(鹿児島大学大学院・法医学分野 林敬人教授)「県内では年間約2000体、警察が取り扱う遺体がある。入浴死はその1割、かなりの数になる」

入浴時警戒情報の運用を始めたのは、鹿児島大学大学院・法医学分野の林敬人教授を中心とするチームです。

法医学が専門の林教授は、県警などから依頼を受けて遺体を解剖しています。死因を究明できれば、事件性の有無を見極めるだけでなく、「死者が残した情報を生きている人に生かすことができる」と林教授は話します。

(鹿児島大学大学院・法医学分野 林敬人教授)「入浴死も含め、死因を解明することで死のメカニズムが解明できる。それを今生きている人に還元してあげる、つまり亡くならないように予防することにつながる」

林教授らがデータを分析したところ、入浴中やその前後に亡くなったいわゆる入浴死は、県内では年間でおよそ190人、17年間で3252人で、交通事故による死者のおよそ2.5倍に上ることが分かりました。

また、9割が65歳以上の高齢者で、冬場の気温が低い日や一日の寒暖差が大きい日にリスクが高いことも分かりました。暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室へ移動する際、急激な温度変化による血圧の変化が不整脈などにつながり、心筋梗塞や脳梗塞を起こすことなどが要因とみられます。

冬場の冷え込みが厳しく、「鹿児島の北海道」とも呼ばれる伊佐市。昨シーズンは22人が浴室から救急搬送され、そのうち9人が心肺停止の状態でした。もし、入浴事故に遭遇したらどう対処したらいいのでしょうか。

(伊佐湧水消防組合 宇都宮啓吾救急隊長)「浴槽の水を抜いて傷病者が溺れないようにして救急車を呼ぶ。1人の時は傷病者を抱えて安全なところまで移動させてほしい」

この時、力が入るように相手の体に自分の体を密着させるのがポイントです。

また、脱衣所を暖めるなどして、「ヒートショックを未然に防ぐことが大切」だといいます。

(伊佐湧水消防組合 宇都宮啓吾救急隊長)「脱衣所など寒いところにヒーターを置いて部屋を温めること。風呂場はシャワーを出しっぱなしにして湯気で室内を温める。室温を上げることが大事」

このほか、お風呂の温度を41度以下にして長時間入浴しない。入浴前にかけ湯をする。異常があった時に早く気付けるよう、入浴前に家族に声をかけることなどが大切です。

入浴死のおよそ85%は自宅で起きていますが温泉施設で発生することも。こちらの温泉では一般の人でも救命活動が行えるAEDを置いてもしものために備えています。また、寒くなるこれからの季節は館内の温度調整もこまめに行うことにしています。

(慈眼寺温泉 鶴留明子さん)「入浴するとき『きょうは寒いから気を付けて、長湯しないで』と声かけしている。(体調悪そうな人が)1時間経つけどあがってこない時、中に入って様子見ることも」

(鹿児島大学大学院・法医学分野 林敬人教授)「これは心臓の組織。こういうのを見ながら肉眼的には見えない病変がないか探す」

林教授によりますと、人口10万人あたりの入浴死による死亡率は、鹿児島はほかの県より高い傾向にあるといいます。そのため、鹿児島で始まった入浴時警戒情報ですが、今後、全国に広がってほしいと林教授は願っています。

(鹿児島大学大学院・法医学分野 林敬人教授)「警報を出すことで『お風呂に入るな』と言っているわけではない。入浴するときに普段より注意する、社会的に防ぐ必要があると思ってもらえれば、入浴死はおそらく減る」「ここからがスタート。今後、警報の効果があるかどうかを注目して見ていきたい」

入浴時警戒情報は、11月から2月末まで限定で毎日発表され、MBCのテレビ、ラジオ、ホームページで公開されます。