大雨特別警報から1年 避難勧告廃止で見えた課題
去年7月、熊本県南部で65人が亡くなった記録的豪雨では、鹿児島県内でも初めて大雨特別警報が出されました。
あれからまもなく1年。大雨への備えや課題について考えます。
今年5月に変わった大雨警戒レベルと避難情報です。取材を進めると課題も見えてきました。
去年7月3日から4日にかけて、熊本県南部と鹿児島県北部で降った記録的な大雨。
伊佐市の1時間雨量は最大で116ミリに達し、総雨量が500ミリを超えたところもありました。
気象庁は4日、県内では初めてとなる大雨特別警報を長島町、伊佐市、出水市、阿久根市に発表。
1人が死亡し、600棟以上の住宅が全壊や浸水などの被害を受けました。
全国で相次ぐ大雨災害。国や気象庁は、情報を住民の避難行動に結びつけようと毎年、新たな手立てを打っています。
今年5月20日、市町村が出す避難情報などを5段階のレベルを示した「大雨警戒レベル」の表記が変わりました。
今回大きく見直されたのがレベル4。
これまで避難を呼びかける「避難勧告」と、より緊急度の高い「避難指示」が並んで記されていましたが、危険な場所にいる人全員へ避難を求める避難指示に一本化。情報をシンプルにして、避難のタイミングを明確にするのが狙いです。
避難勧告が廃止された今年5月20日当日に、出水市が避難指示を出した米ノ津東地区です。
急な大雨の予報だったため、避難指示の前に高齢者等避難の情報は出されておらず、午後7時に突然出された避難指示。
およそ1000人が対象でしたが、実際に避難した人は3世帯4人でした。
(住民)「(避難指示で)すぐ逃げました。(戸惑いは)別になかった」
(住民)「急に避難しないといけない感じで。」
レベル見直しの初日に出された「避難指示」に、住民からは戸惑いの声が聞かれたといいます。
(米ノ津東地区の代表 井脇健太郎さん)「(突然の)避難指示で『どうしないといけないのか』と、『どこまで行動にうつすべきか』と相談受けた。前もって一次情報(避難勧告など)が出れば、住民の意識も高まる」
(出水市くらし安全課 戸﨑基夫課長)「避難指示だけでも、聞く人は影響あるかもしれないが、とにかくいち早く避難情報を出すようにしている」
大雨警戒レベルの見直しについて、MBCが県内全43市町村に取材したところ、8割にあたる36市町村が「避難勧告と指示を一本化してよかった」と回答。
理由として「シンプルで分かりやすい」「指示のほうが避難の意識が高まる」などの声が聞かれました。
一方、2つの町は「いきなり避難指示を出すとなると、発表の判断が難しくなる」と回答。「現段階では評価できない」と答えた5つの市と町からは、「住民の避難行動のための判断材料が、一つ減ってしまった」と懸念する声もありました。
災害や防災について研究する鹿児島大学の井村隆介准教授です。
災害のおそれがあるため避難を促す避難勧告と、危険度が極めて高く急を要する避難指示。
井村准教授は、2つを単に一本化せずに、それぞれの持つ意味合いを市民に定着させる努力をすべきだったと話します。
(鹿児島大学 井村隆介准教授)「勧告と指示が分かりにくいと言われたのであれば、それぞれにそういう意味がありますよときちんと説明して、普及図ることの方が大事だった。持ち物を持って逃げるパターン(避難勧告)、急を要する避難指示があったが、ちょっとレベルは違う。」
レベル変更後の今年6月。避難指示が出されたもうひとつの地域が、姶良市脇元の白浜地区です。
(白浜自治会 大中原繁行会長)「(レベル見直しは)伝えている。みんな準備している。みんな心構えはあるが、あんまり極端な形での避難情報は困る」
警戒レベルの見直しに戸惑いながらも備えを進める住民がいる一方で、姶良市は継続的な周知で定着させることが大切と話します。
(姶良市危機管理課 江口洋亮主査)「一本化され、市民に分かりやすく伝えられるが、市民全員が把握しているかというとできてないところもある。今後も継続して周知したい」
情報を出す各市町村の模索が続く中、井村准教授は避難やそのタイミングは、最終的には住民自身が判断するべきと訴えます。
(鹿児島大学 井村隆介准教授)「家の前の側溝があふれそうになっているのを、市の人たちがみんな理解をして、それを見て避難指示出してくれるかといえば無理。」
(鹿児島大学 井村隆介准教授)「考えることを放棄して、その時の避難情報だけで逃げず、住民自身が『この雨まずいよね、避難しよう』と、みんなが考えないと命は守れない」
避難情報が変わる一方で、行政任せにせず、自分の命を守るためにどう避難するか、普段から考えておくことが大切です。