サッカーが教えてくれたこと…。「もうひとつのW杯」取材日記(6)

8月5日からスウェーデンの中央部、鹿児島からは直線距離で約8400km離れたカールスタッド市を中心に行われている、INASサッカー世界選手権、通称「もうひとつのW杯」の取材のためスウェーデン支店に居ます。
「北欧の地」を感じながらの取材活動を、今回は「日記形式」で記録することにしました。
知的障がい者サッカー日本代表の様子を少しでも感じて頂ければと思います。

-店主・松木圭介

Day5 8月17日(金) 曇りのち晴れ

AM7:30 朝の散歩

試合翌日ということもあり、いつもより早めのスタート。
白星のあとの試合であるからか、選手たちの表情は晴れやか…張り詰めた緊張感は無かった。出水養護学校教諭で日本代表の泉谷光紀コーチが、選手たちに自らストレッチの項目を考え、カウントするすように指示。恥ずかしがりながらも、選手たちは声を出した。いつもとは違う方法で試合に向けてチームがひとつになっていく。

(選手達がランニングする宿舎のそばの風景)

PM0:30 出発前のミーティング

大会期間中、最後の出発前ミーティング。対戦相手のロシアの特徴を改めて選手・スタッフ全員で共有し、日本代表としてすべきことを確認した。

最後は、分析スタッフが中心となって作るモチベーションビデオ。
大会期間中の悔しかったシーンが散りばめられたVTRに選手たちの表情が引き締まっていくのが分かる。西監督の表情も強いものに変わっていく。

「行くぞ!」。西監督の声に応える選手たちの声は、大きさではなく、強さがあった。

PM4:00 5-6位決定戦 日本 対 ロシア

いよいよ今大会の最終戦を迎えた日本代表。
集大成の一戦で、「西ジャパン」が、どんな戦いを見せるのかに注目した。

対戦相手は、予選リーグで、1-2の逆転負けを喫したロシア。
前半立ち上がりから、球際での厳しさが続く試合。時折、選手同士が声を荒らげることもあるほどで、国を代表するチーム同士の意地と意地のぶつかり合いも感じる。基本的なスキルが高いロシアが押し気味に試合を進め、日本は守備の時間が増える。

後半に入っても同様の展開のなか、少しづつチャンスを作り、シュートに持ち込もうとする。西監督はこの日も、鹿児島県出身の原良田龍彦選手を途中から送り込み流れを変えようとする。
その原良田も起用に応えようとするが、ロシアのプレッシャーが強く、なかなかボールを収めることが出来ないでいた。

このまま90分では決着がつかず、試合は、この日も前後半15分の延長戦へ。
その前半に、日本はアンラッキーな形でPKを与え、先制を許してしまう。
追いかける日本は、124分が過ぎても得点を奪えず、このまま試合終了かと思われたとき…。
相手のクリアボールに、ペナルティーエリア右角で、鹿児島県代表チームでも活躍する谷口拓也選手がダイレクトで合わせてペナルティーエリア内にクロスボールを送る。一瞬、スローモーションのようにそのシーンが見え、ペナルティーエリア左側を走りこんで来た原良田がダイレクトで合わせた。手が震えた…カメラに収められたか心配になったくらい。

次に気付いたのは、声を上げ、感情を露にした原良田選手の姿。ベンチに走っていく。
西監督と泉谷コーチが駆け寄り、抱きかかえ、日本チームが、「ひとつ」になった。

(歓喜の鹿児島ホットラインで日本代表が沸く!)

この直後に延長戦が終了し、ロシアへの「雪辱」の望みを鹿児島県勢がつないだ。
流れ的には、PK戦も制する流れの日本。だが、そう簡単には勝たせてくれないのが、「世界」の壁…日本にPK戦を制する力は残っていなかった。

「もうひとつのW杯」最終戦の土壇場で、集大成の力を見せた日本だが、他の強豪国の強化も著しく、前回のブラジル大会よりも順位を落とし6位で戦いを終えた。

試合終了後、ともに戦った仲間を励ましたあと、少し離れたところで、下を向かずに空を見上げていた原良田選手。そして、それを見つめる西眞一監督…。
最後の記念撮影での一言が忘れらない、「泣いていいんだぞ…」。
日本代表が、最高の表情を見せた瞬間だった。

改めて気付かされたことがある。
白星を、勝利を目指すスポーツの世界において、最高の結果は「ひとつ」ではなく、「それぞれの形」があるのだということを…そしてそれは、選手それぞれの成長につながるのだということを。

(悔しさを分かち合う(4)谷口選手と(17)原良田選手)

【試合結果 詳細】
日本 1 - 1 ロシア
0前半0 / 0後半0
0延前1 / 1延後0
(PK)
日本  |××○×-|1
ロシア |○○○--|3

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