桜島とともに暮らす

昭和から平成にかけて、桜島の爆発回数を表したグラフです。

活動が活発だった南岳に変わり、平成18年から昭和火口が活動を再開。平成23年には爆発回数が観測開始以来最多となりました。
そして4年前の平成27年8月15日、地盤の膨張などが観測され、大規模噴火の危険が高まったとして噴火警戒レベルが始めて4に引き上げられました。
その後、活動は収まり、昭和火口はおととし11月以降爆発しておらず、去年からの爆発はすべて南岳です。
大正噴火級の大規模噴火への備えが進む中、観測活動を続ける専門家や火山とともに暮らす住民らを取材しました。下山記者の報告です。


桜島の東側、昭和火口からおよそ3キロの場所にある黒神町です。

(黒神町塩屋ヶ元地区・川元信雄自治会長)「灰が降らなきゃいい山なのにねと皆言う。それが田舎、ふるさとなんだと思う」

大正3年の大噴火では集落の全ての住宅が火山灰に埋まりました。家を失い、ふるさとをはなれた住民も多く埋没したいくつもの墓石は、過去の噴火の歴史を今に語り継いでいます。

105年前の大正3年に発生した20世紀国内最大の噴火、桜島の大正噴火。火山灰や溶岩などの噴出物は30億トンで、桜島で最近起きている1回の噴火の10万倍の規模でした。58人が犠牲となりました。


桜島の降灰量を示したグラフです。ピークだった昭和61年は2270万トン。

その後、平成に入り減少傾向にあります。住民を悩ませてきた桜島の火山灰。

南岳の活動が活発だった昭和50年代から平成にかけて桜島はドカ灰とよばれる大量の灰を降らせました。


京都大学火山活動研究センターの井口正人教授(60)です。


昭和56年に鹿児島に赴任してきて以来、38年にわたり桜島の監視を続けています。降灰量などからみると、平成の噴火活動は比較的穏やかだったと振り返ります。
「昭和は激動の時代といわれるが、桜島においても激動だった。平成30年間はそれに比べ噴火活動は明らかに落ちている」


平成は南岳から昭和火口へ噴火活動が移行した時代でもありました。平成18年昭和火口が58年ぶりに活動を再開。

平成23年には爆発回数が過去最多の996回を記録しました。

そして平成27年8月15日。
(気象庁会見)「桜島警戒レベル3から4へ引き上げました」

火山性地震が1日で1000回を越え、山体の膨張を示す急激な地殻変動を観測。規模の大きな噴火の危険性が高まったとして桜島の噴火警戒レベルが初めて4の「避難準備」まで引き上げられました。

井口教授は、あの日、桜島では既存の火道の近くに急激にマグマが動いたと考えています。

そのときは大きな噴火にはつながりませんでしたが、桜島にマグマを供給していると考えられる鹿児島湾の奥・姶良カルデラでは引き続きマグマの蓄積量が、大正噴火前のレベルまで戻りつつあるとして、大規模噴火への警戒を強めています。
「マグマの蓄積量や歴史的にみれば30年以内に起こる。未来に先送りできる問題ではない」


桜島の南西、南岳火口からおよそ4キロの野尻町。地元漁協の組合長を務める磯辺昭信さん(66)です。
「ナマコは砂地と溶岩の境目に発生するので好漁場。恵みを受けている」

鹿児島市は防災計画で、大規模噴火の際は前兆現象が捉えられるとした上で、事前に島民4000人あまりを船で島外へ避難させることになっています。
フェリー5隻や海上保安部の巡視船のほか、漁協の船も使う計画です。

「常に燃料は満タン。夜間も走れるよう行政から要請があったときだけでなく行動できるよう心構えしている」

磯辺さんは現在、野尻町の町内会長も務めています。一緒に集落を歩いてみると地域の問題が見えてきます。「ここも空き家、寂しい」
桜島で進む人口減少。昭和20年代のピーク時は1万3000人だった桜島の人口は、平成元年には8000人に減少。この30年でさらに半減し現在およそ4200人。
半数が高齢者です。

過疎高齢化は防災面でも課題だと話します。
「若い人が入ればいいけど年寄りを抱えて避難しないとといけないからいろんな面で支障が出るよな」

地域の連携を強めようと磯辺さんは去年、島内の町内会長などでつくる組織を立ち上げました。

(磯辺さん)「大規模噴火についても考えないといけないと思っている」
(東桜島町内会・川添和善会長)「他の町内会長と協力して避難マップ作ったり独居老人の把握したり他の地域の情報を聞けていい」

磯辺さんは、住民一人ひとりが、大規模噴火が起こるかもしれないという意識を持つことが重要と語ります。

「大規模噴火はいつあってもおかしくない。その時はその時でできることを一生懸命するという覚悟はもっている。そういうことだと思う自然とともに生きるということは」

桜島の住民は、いつか起こりうる「その時」に備えて、防災への思いを新たにしながら、平成の終わりを見つめています。