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生徒が先生役でハンセン病問題の授業 ラップでも発信する高校生「自分が差別する側なんだと意識したのが原点」

鹿児島県鹿屋市の高校で行われたハンセン病問題について考える授業。生徒に授業をするのは先生役となった生徒です。企画した高校生は、元患者に出会ったことが活動の原点となりました。
若い世代にハンセン病問題についてもっと考えてほしいと訴える高校生の取り組みが広がっています。

「ハンセン病とは、らい菌という菌が起こす感染力が極めて弱い皮膚の病気です」

鹿屋高校でこの日行われていたのは、ある授業の打合せ。生徒が先生役となって生徒に教える授業です。

テーマはハンセン病問題。ハンセン病は、らい菌の感染で皮膚や末梢神経が侵される病気です。感染力が弱く、戦後すぐ特効薬が導入されましたが、国は1996年に「らい予防法」を廃止するまで強制隔離政策を続け、偏見や差別が拡大しました。

授業では元患者の半生を紹介し、感想を話し合ってもらいます。企画したのは、ボランティア活動を行うインターアクト部・新3年の浜田憲汰さん。(※浜は、まゆはま)「生徒が伝えるハンセン病の授業」は去年に続き2回目です。

(先生役の生徒)「もし(元患者が)『かわいそう』と感想が出たら、何て返したらいいか」

(浜田憲汰さん)「かわいそうと言われたら、差別に屈しないで国と闘って裁判に勝った面がある。すごい、かっこいい人たちと伝えたら良いと思う」

(浜田憲汰さん)「(授業では)仲間を増やしたい。1人の100歩より100人の1歩というのが自分のテーマ」

「自分たちのような若い世代に、もっとハンセン病問題について考えてほしい」とこんなイベントにも…。

(MC)「さあ鹿屋から来てくれました。ケンちゃんどうぞ」

(浜田憲汰さんのラップ)「小さい体では背負いきれない体験。帰り際にした握手。『神経がだめになっているから冷たい』と言っていたその手は心まで温かくした」

去年8月に鹿児島市で開かれた「高校生新聞RAP甲子園」。浜田さんは、ハンセン病の元患者との出会いを歌い上げました。

(浜田憲汰さん)「これは初めてじゃないか。NPOの活動が敬愛園の中で行われていて、その会に上野正子さんも参加していた」

上野正子さん(96)です。沖縄出身で、13歳のときに鹿屋市のハンセン病療養所「星塚敬愛園」に強制隔離されました。

国の誤った政策は違憲と訴えた国家賠償請求訴訟では、原告の一人として2001年に勝訴。療養所で暮らしながら、90歳を超えたいまも自らの体験を語る活動を続けています。

(上野正子さん)「危ない、コップに触わらないでくださいと事務員が言ったので、それが最初に受けた差別だった」

浜田さんが上野さんに出会ったのは、小学5年のときでした。

(浜田憲汰さん)「敬愛園に行くときにすごく緊張してしまって、なぜか。父に教えられていた、ハンセン病は怖くないと。なのに恐怖心を持っていた。自分が差別する側なんだと意識したのが原点」

知らないことで助長される差別の問題。そのことに気づかされた上野さんとの出会いには、小学校教諭として人権教育に取り組んできた父親の洋一朗さん(47)の存在がありました。

(父親・洋一朗さん)「学ぶところまではしても、自ら活動するというのはまた違うレベル。よくこんなに続けているなと感心する」

「生徒が伝えるハンセン病の授業」の当日、1、2年生の11のクラスで一斉に始まりました。

(動画)「保健所や警察だけでなく、一般の人々も患者探しをするようになりました」

(浜田憲汰さん)「まず動画の感想を話し合ってください」

生徒たちは、かつてハンセン病の患者を地域から排除した「無らい県運動」が行われていたことにショックを受けたようでした。

(2年生)「ユダヤ人狩りとやっていることはほぼ同じなのに、学んでいない」

(2年生)「知らないから怖がって、正しい判断ができなくなっている」

先生役を務めた鹿屋市出身の久木田樹里さん(新3年)です。星塚敬愛園を訪れたことはこれまでありませんでしたが、今回の授業の準備のため、今年1月、初めて入りました。

(久木田樹里さん)「昔の話みたいにまとめていた部分もあったが、園の中で生活している人たちもいて、実際に起こったことというのが、よりはっきりと分かった」

「同じ世代にハンセン病問題について知ってほしい」勉強を重ねてきた久木田さんは、自分の言葉で語りかけていました。

(久木田樹里さん)「この人はここの部分が私と違うから、特別に何しようとか無意識に思ってない?無意識に思うことを意識してみることも大事だと思う」

(1年生)「きょうの学びを生かして興味がわいたので、(敬愛園に)行ってみようと思った。自分と立場が似ている人から教わるのは、受け入れやすい」

授業を企画した浜田さんは、「自分たちの住む地域に目を向けてほしい」と呼びかけました。

(浜田憲汰さん)「このまちはより良い未来を作るために、学習することができる宝庫だとも言える。人権問題やこのまちについても学んで下さい」

(浜田憲汰さん)「やり切った達成感がある。一人じゃないみたいな感じがあってうれしい。少しでも関心を持ってくれたらうれしい」

自分たちのふるさと鹿屋市の星塚敬愛園で、強制隔離という歴史があり、いまも暮らす人がいることを知ってほしい。浜田さんの思いは、後輩に引き継がれていきます。