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「イチゴ農園×パティシエ×サッカー」コロナ禍で生まれた“新しい農業の形” 地域の笑顔集う場所に

春といえばイチゴ。こちらのイチゴは、鹿児島県薩摩川内市の農園で作られているものですが、育てているのは洋菓子店を営む男性です。
洋菓子店がイチゴ農園を始めたきっかけとは?

真っ赤に色づいたイチゴ。薩摩川内市東郷町に2年半前にできたイチゴ農園「LPスイーツファーム」です。ハウスでは今、収穫の最盛期を迎えています。

ハウスのとなりにあるのが、イチゴの季節にだけオープンするカフェ。摘みたてのイチゴを使ったパフェやフラッペが味わえます。

「イチゴが甘くておいしい」
「新鮮なものをその日のうちに食べられるのは良い」

一番人気のメニューは…
「こちらがデカパフェになります」

(記者)「イチゴがこぼれ落ちそうなほどたっぷり。見た目から心躍ります」

自家製のイチゴジャムや生クリーム、カスタードなどを重ね、その上にイチゴを10個以上トッピングしたパフェです。

(記者)「イチゴがみずみずしい。甘みと酸味。華やかなイチゴの香りが広がって、とてもおいしいです」

(畑さん)「びっくりするくらいイチゴを食べてもらいたいというのがコンセプト」

農園を立ち上げた畑義康さん(50)です。本業は農業ではなく…パティシエです。薩摩川内市内で父親が営んでいた洋菓子店を10年前に引き継ぎました。しかし、直面したのが新型コロナでした。

(畑さん)「ウエディングケーキなどがコロナの影響でほぼゼロに。長期化するにつれて大きくなる不安、まずいぞと」

苦境の中、たどり着いたのが、菓子作りに欠かせないイチゴの栽培です。価格変動が大きく、当時、仕入れ値が高騰していたイチゴ。畑さんは、仕入れコストの削減などのため、2年前に農業法人を立ち上げました。

1次産業の生産者が、その先の加工の2次産業や販売の3次産業まで手がける、いわゆる「6次産業化」は進んでいますが、その逆の例は少なく、県によりますと、畑さんのように菓子店が農業に参入した例は、県内で唯一だといいます。

(畑さん)「コロナ禍だからこそ、ただ待っているだけではだめだと思った」

農業は、ゼロからのスタート。一筋縄ではいきませんでした。

(畑さん)「苗が弱っても何をすれば良いかわからない。水をあげても良くならず、そこは経験。お菓子は待ってくれるけれど、植物は待ってくれない」

先輩のイチゴ農家にアドバイスをもらい、試行錯誤。1年目は500キロに満たなかった収穫量は、今では1.2トンに増えました。

農業とパティシエの「二刀流」。普通なら間引きしてしまう小さなイチゴや、市場に出回らない不揃いなイチゴも無駄にはしません。

(畑さん)「1粒たりとも残さず、ソース、ジャム、ピューレにして、一切無駄がないのはケーキ屋として良かった。(育てると)イチゴがかわいく見えてくる。食材のありがたみが分かる」

「二刀流」は従業員も。農場の管理を任されている石野佳菜さん(20)です。2年前に市来農芸高校を卒業し、畑さんのもとで働きはじめました。水やり、収穫などの作業をほぼ1人でこなします。

(石野さん)「いろいろな人に作ったイチゴを食べてもらえるのが楽しみだし、作って良かったと思える」

そんな石野さんのもう一つの顔は、薩摩川内を拠点になでしこリーグ入りを目指す女子サッカークラブ「レイナ川内」のキーパーです。

(石野さん)「サッカーが好き。仕事もサッカーも、どちらもあるから頑張れる。もっと練習して点をいっぱい止めたい」

サッカーの夢を諦めず、追いかけ続けています。

(レイナ川内 山口監督)「女子の大学サッカーが県内にはないので、県外の大学や社会人チームに進むか、サッカーをやめるという流れなので、地域の皆さんに支えられながら成長している」

畑さんも、石野さんの挑戦に期待しています。

(畑さん)「後継者不足で農業をやる人が少なくなっている。誰でもできるようになれば心強い」

コロナ禍を経て、初めて迎えたイチゴの季節。この日、畑さんは、イチゴ狩り体験を初めて企画しました。

(畑さん)「ここに手をこういう風に入れて、すっと。どうぞ」
(子ども)「おいしい」

(参加者)
「粒が大きい。甘くておいしい」「おいしい。50個食べる」

「イチゴ―ゴー。(こういう場所は)近くにはないのでまた来たい」

今後、イチゴの種類を増やして観光農園としても活用したいと考えています。

(畑さん)「東郷町は過疎化が進んで子どもの声も聞こえなくなってきた。こういう場所があって少しでも人が来てくれれば、地域がぱっと明るくなる。常にわくわくを届けられたら」

コロナ禍での苦悩をきっかけに始めたイチゴ農園。地域の笑顔が集う場所へと変わりつつあります。

【LPカフェ(農園カフェ)】
▼5月の大型連休まで土日限定でオープンし、イチゴのメニューを提供。
▼イチゴ狩り体験は来月から予約制で開始。詳細はLPカフェのインスタグラムで案内。