雨期防災③コロナ警戒下の避難 命を最優先する行動を
新型コロナウイルスの感染が再び拡大することが懸念される中での避難について考えます。
災害と新型コロナから命を守るためにどう行動すればよいのか?緒方記者の報告です。
去年7月3日。降り続く大雨の中、鹿児島市は全域のおよそ59万人に避難指示を出し、187か所の避難所を開設しました。避難所にはおよそ3400人が避難し、一部の避難所に人が集中するなど課題も残りました。
その後、避難所の見直しなどが行われてきましたが、新たな懸念材料となっているのが新型コロナウイルスの感染症対策です。
感染症の専門家は、避難所は多くの人が集まり3密の状態になりやすいことに加え、感染対策に必要な消毒液などの備品が不足することなどから集団感染につながるおそれがあると話します。
(鹿児島大学病院・川村英樹特例准教授)「居住スペースが狭いので人と人との距離をとりづらいというのがあります。もう1つは感染対策をするためのものとかライフラインが破綻するとか、水道が破綻すると手洗いが基本的な感染対策になるので、クラスターが発生しやすいリスクになりうるだろう」
避難を行う住民の側からも不安の声は聞かれます。
(緒方記者)「鹿児島市稲荷町を流れる稲荷川です。去年の大雨では、あと数十センチで水があふれるところまで水位があがりました。」
稲荷町で町内会長をつとめる肥後吉郎さん(78)です。
去年の大雨の際には稲荷川で氾濫のおそれがあったことから、川の近くなどに住む住民に電話で避難を呼びかけ、自身も娘の家に避難しました。
しかし、今年は新型コロナへの懸念もある中で、どのように避難を呼びかけるべきか、迷いもあるといいます。
(肥後吉郎さん)「避難所はこわいと言われたら、それだけの感染対策がしてあるから安心ですよと言っても万が一のこともあるから。」
災害に詳しい専門家は、避難所は命を守るための施設であり、まずは避難者を幅広く受け入れるべきで、それを前提に感染症対策の議論をする必要があると話します。
(鹿児島大学・井村隆介准教授)「避難所がクラスターになることを恐れて地域の怖いと思ってる人たちを受け入れないのは本末転倒。土砂災害とか洪水に巻き込まれたら命はないわけだから、自然災害をまず避ける、避けた人がコロナウイルス対策がちゃんとできるっていうふうに考えてもらったほうがいいと思います」
行政の模索は始まっています。
(鹿児島市地域福祉課・山内博之主査)「こちらは児童ルームと言われている場所になります、体調不良者が出た場合はこの別室で対応する」
鹿児島市下竜尾町のたてばば福祉館。市の指定避難所となっていて、去年の大雨では最大で31人が避難しました。
鹿児島市では、避難所での感染対策として、230か所の避難所全てに非接触型の体温計をひとつずつ準備。入り口で職員が検温し、熱がある人は別室に案内したうえで医療機関に搬送することなどを検討しています。
また、避難した人同士が2メートルの距離を確保できるよう、1人分のスペースをこれまでの倍の4平方メートルと定めて、各避難所の定員を見直しました。
その結果、去年と同じ数の人が避難した場合、6か所の避難所で新たな定員を上回ることが分かり、その避難所については、近くにある別の避難所を早い段階で開設することを決めました。
また、市は、避難所だけではなく安全を確認したうえで友人や親戚の家への避難も検討するよう呼びかけています。
(山内さん)「避難所で人が密集してしまうことが出てくるかもしれないが命を守るということが大前提。ただ、そうはいっても感染症に対する対策をそれぞれがしなければいけない」
ほかの自治体より一足早く、避難所での感染症対策を実施した自治体もあります。
今月18日、薩摩地方を中心に降った大雨の際に平年の5月1か月分の雨量の84%にあたる雨が1日で降った阿久根市。
当日は7か所の避難所が開設され、体調が悪い人を隔離するための間仕切りを準備するなどの対策が取られました。実際に避難したのは2人でしたが、運営を通して課題も見えたと言います。
(阿久根市危機管理係 尾上謙一郎係長)「発熱の症状がある方が避難された場合に受け入れるべきかどうか非常悩んだ。その考え方について協議を進めていく必要があると感じたところです」
感染症対策の模索が続く中で本番を迎えようとしている今年の雨のシーズン。
住民の避難に直接関わる町内会長の肥後さんは、行政の取り組みを踏まえて事前に災害時の行動を検討しておけば、いざという時に住民も迷わず、いち早い避難につながると考えています。
(肥後さん)「(行政の対策が)どこまでできて、どこまでできないか分かれば、こちらはそれに応じて住民にお知らせをして、少しでも避難の方法を考えやすいように。(新型コロナの)そういうことも考えてそれぞれの家庭で避難の仕方を話し合っていくことが一番大事だと思います」
(井村准教授)「コロナが怖いのか、それともその災害で命を落とすことが怖いのか、これはもう自分の判断です。川沿いや崖沿いに住んでいるとかで確実に避難が必要な人もいる。そういう人は躊躇せずに避難所に逃げるべき。」
災害時に命を最優先して行動するためにも、感染症対策も含めてどう行動するのかを平時のうちに考えておくことが大切です。