85歳の仕立て職人 スーツを作り続けておよそ70年
仕立て職人としてスーツを作り続けておよそ70年
ひと針ひと針、丁寧に時間をかけてつくるハンドメイドのスーツ。
仕立て職人歴およそ70年。黒木幸さん(85)です。
元気のみなもとは”食事”
黒木さんは、妻のトシ子さんと2人暮らし。元気のみなもとは、毎日の「食事」です。
(妻・トシ子さん)「よく食べるの!食べます」
(黒木さん)(Q.食べるのが好きなんですか?)「やっぱそうですよね、力が出ないもん」
結婚して50年。食べることが大好きな夫のために、トシ子さんはほぼ毎日弁当を作ります。
通勤はバスです。5歳の時にけがをして以来足が不自由ですが、バス停までは歩くと決めています。
裁縫の道をえらんだのは17歳のとき、テーラー歴は約70年
裁縫の道をえらんだのは中学校卒業後、17歳のとき。足が不自由だったため、手に職をつけるよう父親から勧められました。
テーラー歴およそ70年。スーツをはじめ、フォーマルな装いのモーニング、さらには西郷隆盛の軍服レプリカなど、これまでに手掛けた服は5000着を超えます。
アトリエで若い職人たちと並んで毎日、仕事に励む
現在、勤めているのは、天文館にあるオーダーメイド専門店。アトリエで、20代、30代の若い職人たちと並んで毎日、仕事に励んでいます。
この日、仕立てていたのは、フルオーダーのジャケット。客の体形に合わせて型を取り、生地を手縫いで丁寧に仕上げるため、1着出来上がるのに3週間ほどかかります。
仕立ての工程の中でも特に難しいとされるのが、身頃と袖を縫い合わせる「袖付け」。後輩たちは黒木さんの「袖付け」の技術は特に美しいと話します。
(加治木有美子さん)「いまだに全然追いつけないところ。すごく美しい。変なシワがまったくない。黒木さんの袖付けを目指してがんばっているところです」
一方、最近は細かい作業が難しくなり、若手に助けてもらうことも多くなりました。
(水迫しおりさん)「(ボタンの)字が小さくて向きがわからないってことだったので。これが下ですね」
(黒木さん)「あ、こうか…」
ベテランと若手が、お互いを補い合って仕立てるスーツ。アトリエのスタッフが口をそろえて「尊敬する」と話すのが、若手からの要望や意見に柔軟に対応する黒木さんの優しい「人柄」です。黒木さんの仕立てを若手が検品した際も…。
(伊達仁崇さん)「ちょっとアイロンでさ…」
(黒木さん)「伸ばすわけ?」
(伊達さん)「ここに余りがあるから」
(黒木さん)「あ、そこが…」
若い職人からの指摘も、素直に受け入れます。
(裁断士・伊達仁崇さん)「普通はベテランさんは自分のやり方でやっちゃうが、1回1回聞いてきてくれるので」
新たな試みにも一緒に挑戦
そして、店としての新たな試みにも…働く女性が増え、需要が伸びる女性服のオーダーメイド。紳士服だけでやってきた職人は新しいことを拒むことが多い中、黒木さんは一緒になって挑戦してくれるといいます。
(福留理恵子さん)「これは黒木が作ってくれた私の洋服。黒木は嫌がらずに『やってみようか』ということで」
黒木さんは、大好きな仕立ての仕事を通して、仲間やお客さんの笑顔が見られる毎日に、幸せを感じていると話します。
(黒木さん)「お客さんが喜ぶのが楽しみよね。できた洋服をみて(喜んでくれたら)それがひとつの楽しみ。みなさんがいい人ばっかりやもん。環境がいいからよ、やっぱり毎日が楽しいわけよ、来るのが」
(福留理恵子さん)「黒木さん、何歳まで勤めてくれますか?」
(黒木さん)「わかりません(笑)」
大好きな仲間と共に、もう少し、がんばってみようかなと話します。
(黒木さん)「ま、ぼちぼちやりましょう(笑)」