25台まで減った「走る魚屋さん」75歳女性が運ぶ新鮮な魚とやさしい時間 つなぐ地域コミュニティ(2023年7月4日放送)
全国有数の水産県、鹿児島。かつては各地をまわる魚の移動販売車が盛んでしたが、高齢化や燃料高騰などで県内では現在、25台ほどまで減りました。
『走る魚屋さん』で、地域の暮らしを支え続ける75歳の女性を取材しました。
県内で獲れた新鮮なエビやカマス、キビナゴ。並べられているのは、住宅街に停められた軽トラックの車内です。
西村ミドリさん、75歳。40年前から、鹿児島市で魚の移動販売をしています。その日水揚げされた地元の魚が安く買えると人気です。
(客)「キビナゴがおいしいので今夜お刺身にしていただく。この方のお魚しか買わないからいつも頼りにしている」
(ミドリさん)「お客さんが喜んでくれると、こっちもうれしい」
♪かわいい、かわいい魚屋さん~
おなじみの音楽で各地域を回る「走る魚屋さん」。魚の移動販売業者でつくる組合によりますと、昭和50年代に県内で200台ほど走っていた販売車は、高齢化や燃料高騰などで、現在は25台ほどまで減少。今ではあまり見かけない存在になりました。
一方、国の試算によりますと、「自宅から最寄りの店まで500メートル以上あり、車を持っていない65歳以上」の割合が、鹿児島県は2040年には全国2位の20%にのぼるとみられていて、買い物弱者への支援が課題となっています。
ミドリさんの車にも、高齢者や子育て世代など多くの客が訪れます。
(客)「前は車に乗っていたけど子どもが心配するから。とても助かっている」
午前4時。中央卸売市場から1日が始まります。
(ミドリさん)「エビゲット。鹿児島のタカエビ。お刺身でおいしいの」
夫の健二郎さん(83)です。かつては夫婦2人でまちを回っていましたが、20年前にガンを患いました。今は移動販売はミドリさんに任せ、仕入れなどで支えます。
(健二郎さん)「うちの家内が頑張ってるから、それについていく。(ミドリさんは)お客さんに好かれているから、それが一番生きがい」
この日は旬のアジをはじめ、タイやカンパチなど、およそ50種類を仕入れました。
週に4日、鹿児島市内を中心に20か所回ります。相手に合わせた調理法を織り交ぜながらオススメを紹介します。
(ミドリさん)「刺身にする?」
(客)「焼く」
(ミドリさん)「焼く?これは今日安いよ、アカイカだからおいしい」
(客)「小麦粉をつけてバターで焼くだけでおいしいよとか、いつも簡単な方法を聞いてます」
(ミドリさん)「あの時の魚おいしかったとか、あの料理おいしかったと言ってくれるとうれしい」
移動販売車の常連で西伊敷に暮らす茶圓みさえさん(99)です。10年前に夫を亡くし、今は一人暮らしです。
(茶圓さん)「誰も来ないときはしゃべりません。お話しする相手がいないもの。(移動販売を)やっぱり待っているのよ」
(音楽が聞こえてくる…)
(茶圓さん)「聞こえました。財布を持って出ていく」
ミドリさんの移動販売車は新鮮な魚だけでなく、茶圓さんにとって大切な時間も運んできてくれます。
(茶圓さん)「サケはある?」
(ミドリさん)「あるよ」「きょうも元気そう、よかった」
(茶圓さん)「お話しなくても伝わるの」
(茶圓さん)「こうしてお話ができるの、みなさんと。それで元気なの」
(ミドリさん)「新鮮な魚を売って、みんなが元気出たよっていうのが一番うれしいよね。体が続く限り、(もう)80歳になるから。それくらいは頑張ろうか、みんな待っているからね」
「走る魚屋さん」がつなぐ地域の輪。きょうも明るい音楽とともに、魚と笑顔を届けます。