「虎が来っど〜〜〜〜〜」ことしで休止「市来の七夕踊」無事奉納 規模縮小も観客沸かせる

400年以上の歴史があるとされる、鹿児島県いちき串木野市の大里地区の「市来の七夕踊」は、担い手不足により、これまでの形での祭りは今年で休止されます。7日に行われた“最後の祭り”を取材しました。

大里地区に響く太鼓と鉦の音。五穀豊穣などを願って400年以上続いてきたとされる七夕踊。その最後の本番を迎えました。

(七夕踊保存会 堂地國男会長)
「(前日は)眠れなかった。最後の締めをピシャッと締めたい、それだけ。みんなの最後の記念になってくれればいいと思っている」

かつては地区総出で行われた七夕踊も、少子高齢化の影響で大きな張り子の動物とともに各地を練り歩くなど、盛大に開くことが難しくなり、伝統的な形式での開催はことしで休止されることが決まったのです。

(観客)
「この近くで生まれているから、この踊りを見ないと1年が終わらない。目に焼き付けておきたい、最後の踊りを」

今回披露したのは、3種類ある行列のうち、笛や銅鑼などを鳴らしながら踊る「琉球王行列」と、女性用の浴衣姿で薙刀を手にして踊る「薙刀行列」だけにするなど、例年より規模が縮小されました。さらに…。

(記者)
「張り子の動物が並んでいます。ことしは動かさないということですが、こちらの虎は大きな口を開けて迫力満点です」

それぞれの集落の力を結集させて作り上げた鶴、鹿、虎、牛の動物たち、「つくいもん」です。例年であれば暴れまわって観客を盛り上げますが、ことしは人手不足とコロナ対策で、展示だけ。それでも、子どもも大人も興味津々です。

(帰省中の女性)
「小さい時に自分が来たことあるお祭りを子どもたちにちょっと見せたいなと思って。(子どもたちは)食い入るように見ていましたね」

夕方になり、4つ目の会場での奉納が始まりました。すると…
「虎が来っど〜〜〜〜〜」突然、虎捕りの叫び声が。

予定にはありませんでしたが、つくいもんの最後の見せ場として急遽、寸劇が始まったのです。体を張った即興の演技で場を盛り上げる虎捕りの、この男性。米園悦郎さん、75歳です。18歳のときから、およそ60年間、虎捕り役を務めてきました。

(米園悦郎さん)
「あっという間に終わった。もっとやりたかったけど、あっという間に終わった。俺はまだやりたかった。こういうものがなくなるのは寂しいよね、なんの楽しみもない」

奉納を終えた後も、虎のつくいもんから離れず、子どもたちを楽しませる米園さんの姿がありました。

(米園悦郎さん)
「もうこういうものを見る機会はないよ。もう終わりよ」
「楽しかった。最後だったので楽しかったけど、まだやりたかったよ、本当。もう涙が出るよ。どうもお疲れさんでした」

日が落ちて、いよいよ最後の奉納です。「一番ドン」を務める樋ノ口亮さん。全員をリードする踊り子です。かつて一番ドンを務めた父親の実さんが準備を手伝います。

(父・実さん)
「親としてはだいぶ心配しましたけど、無事に打ち終わってくれと」

(樋ノ口亮さん)
「多くの人が集まってくれて、たくさん見てもらえた。今後なくなるのかと思ったらちょっと寂しい」

「今までで一番よい踊りをしたい」と臨んだ樋ノ口さん。400年の歴史を締めくくる大役を見事、果たしました。

(樋ノ口亮さん)
「これで一応休止と言うことになるんですけど。続けていけるように、みんなで頑張っていこうと思っているので、それに繋げられたらと頑張っていました」

そして、祖母のために踊り子として初めて参加した久木園孔輔さん。その雄姿を一目見ようと、祖母のマサ子さんが駆け付けていました。

(祖母・マサ子さん)
「踊って見せてくれと言ったの。孫の踊りを見られるまで生きていて良かったと思う。ご苦労さんです」

半日かけて行われた七夕踊りの奉納。終わりの時を迎えます。

(七夕踊保存会 堂地國男会長)
「最後だったので、私も思う存分楽しませていただいた。盛大に終わって一安心している。みんなが結集してくれて、踊りが無事済んだということに対して感謝」

400年以上とされる歴史の中で大きな節目を迎えた「市来の七夕踊」。再び完全な形の祭りを見ることは難しいかもしれませんが、住民たちの心にはしっかりと刻み込まれたようです。

伝統的な形式での七夕踊は今年で最後となりましたが、地域では「『つくいもん』は作れなくても、太鼓踊だけでも守っていきたい」といった声が若者から上がっているということで、どういう形で伝統をつないでいくのか、これから検討されるそうです。

▼祭り前の取材はこちら

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