【8・6豪雨災害30年】当時の気象台予報課長・前田一郎さんが感じたもどかしさ「情報しっかり伝わってれば…」(2023年8月4日放送)
2023年8月6日で30年となる1993年の8・6豪雨災害。MBCのウェザーキャスターも務めた前田一郎さんは、当時、鹿児島地方気象台の予報課長でした。あの災害に直面し、感じたことは?
(前田一郎さん)「気象庁の職員で一生に一回あるかないかという大きな気象災害をいくつも経験した年」
8・6豪雨災害があった1993年をこう振り返る前田一郎さん。当時は、鹿児島地方気象台の予報課長として大雨などの情報を発表する立場でした。この時は前日から大雨・洪水警報を発表。当時は、警報が最も危険度の高い情報でした。
(1993年当時・気象台予報課長 前田一郎さん)「(Q.市民に大雨洪水警報が出ているという認識がなかったのでは?)我々としては今回の場合、かなり早めに警報を発表できたと思っている。警報はめったに出すものではありません。警報が出ているということは非常に異常な状態だということを認識していただきたいと思う」
1993年は、大雨警報がほかの年と比べて4倍ほど多い22回発表されました。めったに出さないはずの情報が繰り返される異常事態でしたが、逆に“慣れ”につながり、県民にうまく危機感が伝わらない側面もあったと振り返ります。
(前田一郎さん)「かなりもどかしさはあった。気象台が一般の方まで情報を伝えるにはマスコミが頼りだったが、なかなか出した情報の意味合いを理解していただけず。発表した情報が住民にしっかり伝わっていれば、もう少し災害の様相も変わったかなという気持ちは今でもある」
この時の経験は、その後の前田さんの気象との関わり方を変えました。
(前田一郎さん)「もし自分が直接マスコミまで出向いて、気象台が出した情報を伝える立場、かみ砕いて伝える立場になったらもう少し情報が一般の方にも伝わるのではないかという気持ちがあって、ここMBCに移った」
8・6豪雨災害から3年後、気象情報をより分かりやすく県民に届けようと、ウェザーキャスターに転身。24年間にわたり活躍しました。
8・6豪雨災害から30年。災害級の大雨が全国的に増えるなど、気象状況は大きく変わりました。
(前田一郎さん)「(当時)雨量基準1時間に50ミリ以上が予想されたときに警報を出すとなっていたが、今考えるとそれくらいの雨は、最近は頻繁に降っている。30年経つとだいぶ気象が変わってきた気がする」
そして、気象状況の変化に伴って気象に関する情報も大幅に増えています。
(前田一郎さん)「昔から気象庁は、大きな災害があるとそれにこたえて、(情報を)いろいろ変更したり新しいことを始めたりというのが例。最近は気象災害が多すぎるので、かえって(情報が増え)複雑になっている」
気象に関する情報が増えた今、求められるのは必要な情報を自分で選ぶことです。30年前と違って、現在はインターネットやアプリなどで気象情報を手軽に入手できるようになりました。
ハザードマップを見て自分の身の回りの災害リスクや避難施設の位置、避難する際の経路などを普段から確認しておくこと。そして、台風の接近や大雨が予想される場合は、雨量予想や雨雲の動きなどを随時確認し、「キキクル」などを使って斜面の近くなら土砂災害、川の近くなら浸水の危険度など、自分の状況にあわせた情報を集めて避難行動に移すことが大切です。
(前田一郎さん)「いくら市町村などの自治体の対応を待っていても手遅れになるのはまだ続くと思う」「情報を待つのではなく、自分から積極的に集める必要がある。今はそういうことができる時代」