7月豪雨から1年 水に浸かった隈之城地区の備えは

去年7月の豪雨を振り返ります。川内川の支流が決壊・氾濫した薩摩川内市の隈之城地区では、避難情報の発表が氾濫発生の3時間後となり、54人が取り残され、救助されました。7月3日で1年、何を教訓として次への備えを進めているのでしょうか?

(鹿児島大学 井村隆介准教授)「実際にボートで自宅から避難したということもあった。(去年の水害で)命を落とす人がいてもおかしくなかった」

去年7月3日午後9時すぎ。国道3号沿いのガソリンスタンドです。このあと水は、腰の高さを超えました。

そこから200メートル離れた家電量販店です。無人の店に静かに水が浸透し、倉庫で商品が動き始める様子を防犯カメラがとらえていました。

1年前のあの日、薩摩川内市周辺では夜になって雨脚が強まり、南の山間部では、時間雨量89ミリの猛烈な雨を観測しました。

この雨で、隈之城地区では、川内川の支流の百次川と勝目川が相次いで氾濫・決壊。

時を同じくして周辺の排水路からも水があふれ、住宅や家電量販店など20ヘクタールが浸水しました。浸水の高さは最大で1.6メートルに達しました。

この水害で、逃げ遅れた住民ら54人が消防にボートなどで救出され、浸水した住宅は床上床下あわせて60棟に上りました。

さらに百次川では、3日後の6日未明、応急復旧した場所が再度決壊。住民9人が再び消防に救出される事態となりました。

あれから1年。

車の電気修理を営む男性です。当時、自宅前の工場にいました。
(湯浦省二さん)「雨というより、気づいたのは下水が上がってきた。被害額は総額1000万円くらい」

かさ上げしていたため、床下浸水で済んだものの、車3台が廃車となった女性は…

(辻彰子さん)「(一帯は)海。夫に電話で『外が海なんだよ』と伝えた。」

氾濫が起きたあと、市が避難情報を出したのは3時間後にずれ込みました。
もっとも厳しい最中には、防災無線も含め情報は一切入らなかったと振り返ります。

(辻彰子さん)「(状況が)全然分からなくて。まさかそこ(決壊)までなっているというのも次の日に知った。防災無線・サイレンが鳴ったりというのが全く無かった。」

 

さらに大きな課題となったのが、3日後の百次川の再決壊で、2度目の浸水をした1.6キロ下流の日暮東地区です。

1回目の浸水で救出され、いったん避難したものの、情報がないまま家に戻り、2度目の消防救出された住民は…

(福村麻衣さん)「驚いた。自分たちも甘かった、ちゃんと調べるべきだったというのはあるんですけど、市から情報はもたらされるべきであると思います。」

水害のあと議会で謝罪し、有識者会議で問題点を検証し、情報発信の見直しを進めてきた薩摩川内市。

住民説明のあり方はどうあるべきか、MBCの質問に田中良二市長は?

(薩摩川内市 田中良二市長)「早めの情報発出と、直接的な説明は心がけていきたい。現場に行って直接的な体験を聞いて、対応の即決を図りたい。」

(鹿児島大学 井村准教授)「(道路の)下には用水路が隠れている。それは、田んぼという水を送る場所が無くなってしまい、雨のとき水は集めるけれど出す部分がないということで、そこであふれるしかない。」

氾濫は、川の洪水と決壊だけでなく、2つの排水路から水が溢れたことで拡大しました。地質学が専門の鹿児島大学・井村隆介准教授は、同じような氾濫は田んぼを住宅に造成した地域では、どこでも起こりうると警鐘を鳴らします。

(鹿児島大学 井村准教授)「日本中、田んぼが埋め立てられて宅地化されている所では、普通に起こりうる。いくら手当をしても、用水路があるかぎり何度でもつかると思う。」

あれから1年。浸水で大きな被害を受け、休業が続いていたガソリンスタンドでは今週竣工式が開かれ、2日に営業を再開しました。事務所を以前の平屋から2階建てにし、いざというときに避難できるよう備えています。

(南国殖産・隈之城給油所 鈴東駿也主任)「2階建てにした。頑張って営業していきたい」

氾濫が広がった坪塚自治会の椨光徳自治会長です。
去年の水害では、市の情報を待たず住民を率先避難させました。
地域の会合や回覧で備えの大切さを訴えています。

(坪塚自治会 椨光徳会長)「(去年の水害は)突発的だった。自分の命は自分で守るということを基本に、自治会のみんなにいつも言っている。」

決壊した川で管理者の県は、年度内の完成を目指し、改良復旧を進めるとともに監視カメラを設置しました。

しかし、井村准教授は、自治体や気象庁の情報に頼りすぎることなく、住民が自分自身の五感で備えることが重要と訴えます。

(鹿児島大学 井村隆介准教授)「いくら科学は進歩して観測機器が入ったとして、『あなた今逃げなさい』というピンポイントでは絶対に情報が出せない。中小河川では、雨が降ってから増水するまでの時間が非常に短い。情報が出たときには、手遅れの可能性がある。」

(鹿児島大学 井村隆介准教授)「そういう意味でも、自分の命は自分で守る。(避難)行動を起こすことだけでなく、自分自身で逃げるタイミングも考えることが重要。」

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