
放送日:2026年4月17日
「春眠暁を覚えず」…とはいうが、年齢を重ね、人生のこの先が見え始める老いの領域に入ってくると、イヤでも早々と目が覚める。起き出すと、まだ夜明け前。東の空がほのかに明るくなっている。二十歳前後の学生だった頃、徹夜で麻雀に打ち込み、疲労困憊のまま一応、学校に行き、夕方からボウリング場でアルバイト。そのまま軽く飲みに繰り出し、友人の下宿に転がり込んで、また、麻雀。その合間に、睡魔に我慢できず布団に潜り込んで目覚めたら、窓の外が薄明るくなっていた。一瞬、夜明けなのか黄昏なのか、学校に行くべきか、バイトに行くべきなのかがわからなかった。全く野放図でいい加減で締まりのない若者だった。
あのころに比べれば、ずいぶん規則正しい生活を続けてきたものだ。起きて、会社に向かい、仕事を済ませて、帰宅して、寝る。その間に三度の食事と睡眠と…。ポチだってタマだって、もっとのんびりと好き勝手に生きていそうなものだが、雇われてお金をいただいて糊口をしのぐ生業(なりわい)を何十年も続けていると、毎日が判で押したように変わり映えのしない日々になってしまう。
かといって、そんなサラリーマン生活を送ってきたことを、とくに悔んだり、情けなく思ったりしているわけでもない。ことあるごとに「仕事が生きがいなんだ」と話す先輩もいるにはいたが、ボク自身、日々の仕事のあれこれにそれほど思い入れたことは一度もない。「生きがい」と豪語していた先輩も、肝心な時に手を抜いて、かなりいい加減なご仁だったしね。「手柄は自分、責任は部下」という自己防衛と上昇志向の強い人物はどの会社にでもいるけれど、たいていの場合、会社はちゃんとそれを見抜いて、それなりの処遇しかしないものだ。よほど酷い、強欲のオーナーが経営しているのでない限り、企業というサラリーマンの集合体はそれほど大きく無茶苦茶はしないものだ。何しろ三つの会社を渡り歩いたので、経験上、そう思う。
20歳代の会社員の45%、ほぼ半数が「孤独を感じている」と答えたと新聞に出ていた。野村総合研究所が去年の夏に実施したアンケートだが、それによると、20歳代の32%、3人に1人が「抱えている孤独が深刻だ」と答えている。学生生活とはまるで違う環境にさらされて、誰に相談するあてもなく、語り合う仲間もいない。そんな状態なのだろうか。我と我が身を振り返ってみても、あまりにも遠い昔の話なので思い出せないが、う~ん、あれこれ辛かったり、悩んだりしたことはあったけれど、孤独ねぇ。おそらくだが、たぶん、20歳代って次々に降って来る指示と命令に追われて、孤独さえ感じさせられる余裕を与えられていなかったような気もする。時はバブル一直線の「24時間働けますか」の時代だったし…。幸せだったのか、不幸だったのか。
時は4月。入社式を終えて、新入社員は研修まっただ中だろうか。それとも現場を走り始めた頃だろうか。こんなこと言うと、叱られるのだろうけれど、覚悟して、あえて言うなら、「働くことでお金がもらえる」って、当たり前のようでいて、実は本当にありがたいことなんだよ。生きていくことを自分の力で確かに支える。そんな環境、会社の存在に、時々でいいから、感謝してみてもいい。それがしたくても、できない人もいるのだから。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭










