MBCラジオ

「#91 赤飯」風の歳時記

新型コロナ騒ぎの頃からだから、もう5年ほどになる。主食は玄米、それも発酵玄米と決めている。玄米を小豆と塩で炊き、3、4日保温しておくと、もちもちっとした食感になり、何より柔らかな口当たりがいい。デトックス効果があり、アンチエイジングにも抜群などとモノの本には書いてあるけれど、そんなことはどうでもいい。とにかく旨いのだ。噛めば噛むほどジワジワと染み出してくる穀物本来の旨味といったらいいのか。これさえあれば、おかずは白菜漬けか梅干しだけでも十分にいける。

その発酵玄米と色合いが似ているせいもあるのだが、本当にもったいないと思った。先日、福島県のいわき市で2100食分の赤飯が捨てられたというニュースだ。市内の中学校で3月11日、卒業生のお祝いに用意された赤飯給食が当日になっていきなり取り止められ、廃棄されたというのだ。どうして、また…と新聞を読み進めると、卒業生、つまり中学3年生の最後のご飯給食が3月11日だったのだが、その日は東日本大震災からちょうど15年のその日に当たる。すでに赤飯は調理済みだったけれど、その日の朝に学校に「震災のあった日に赤飯はおかしいだろ」という電話があり、教育委員会が赤飯給食を中止し、生徒たちには急きょ、学校に備蓄されていた非常用のパンを食べさせたのだそうだ。

なるほどね。いわき市内では津波などで470人が亡くなっていて、この日は追悼式も予定されていた。「追悼の日に赤飯の給食はないだろう」という1本の電話に教育委員会が「そうだったなぁ」と反省し、ただちに取りやめた気持ちはわからないでもない。わからないでもないが、よく考えてみると、やはり、正直なところ、わからない。

赤飯は、日常、ふだんの生活の中で頻繁に食べるものではない。幼い頃の記憶をたどっても、誕生日や七五三、結婚式や還暦祝い、それに田舎では葬儀や法事の後の直会(なおらい)やお斎(とき)でも出されていた。赤い色には魔除けの力があると言われていて、神棚に赤米を供えるのもそのためだ。お祝いの席では、災いを祓って、幸運を呼び込むために赤飯が出され、法事で提供されるのも「厄を払って前に進もう」という縁起直しの意味で赤飯を食べていたんだよね。

そんな由来に思いを馳せると、震災から15年の日に卒業を祝い、震災の惨禍を胸に刻み、新たな人生をスタートさせる中学3年生たちの最後の給食に赤飯を提供するのは、ごくごく自然な、当たり前のことだと、ボクは思う。しかも、この子たちは15歳。そう、まさに大震災が起きたその年度に生まれた子供たちだ。彼らの門出に、こんな混乱をもたらした1本の電話もそうだが、教育委員会は何をあわてて、赤飯を非常食のパンに切り替えたのか。

世はSNS全盛、というより思い付きの膨大なSNS発信が、顔の見えない、物陰から銃を乱射するように撃ち込まれ、人々の心をズタズタに裂いてしまう時代でもある。1本の電話が波状的に引き起こす非難の嵐を想像して、過剰に反応したということはなかったのか。

赤飯はお祝いだけでなく、追悼と再出発にもふさわしい食べ物であることを知っていたら、こんなことにはならなかったのだろう。

赤飯の湯気あたゝかに野の小店    正岡子規

赤飯は季語ではないが、この子規の句は春。「あたたかに」が春の季語だ。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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