薩摩狂句の作り方

一、薩摩狂句とは

薩摩狂句は、社会や人情・風俗など人間社会を素材にして、
鹿児島の方言で五・七・五の十七音で表現する郷土文芸であると言うことができます。
そして、その十七音の中に狂句味がなければ狂句とは言えないでしょう。
また、鹿児島の方言を使ってただ十七音に並べさえすればよいというものでもありません。

「朝起きっ すばてかあ 便所まなっ」

この句は、朝起きてから、飯を食べて便所に行ったということを、
鹿児島の方言で十七音にまとめてあるだけでは狂句味がありません。
生活の事象を十七音で説明してあるにすぎません。

「朝飯の中途で何度か便所まなけ立っ」

さらに

便所まなかあ 朝飯中途つとで 使けが来っ」

こうすると、朝飯を食べている途中で便所から使いが来たということで狂句味が出てきます。
擬人法ですが、便所から使いが来たという滑稽味(ユーモア)があります。
薩摩狂句は十七音とともに、その着想が大事です。

 

二、狂句味とは

人間社会の中で、人の心や社会、家庭の出来事などの機微をとらえて、それをユーモラスに、
あるいは皮肉に、あるいは人情的に作者が感じて十七音に表現したものが狂句味です。
狂句味には次のようなものがあるようです。

(一)滑稽味(ユーモア)

滑稽というのは言動がおどけておもしろおかしいことですが、
それを五・七・五の狂句にしたとき、読者が思わず吹きだすような笑いのある句が、滑稽味の句といえるでしょう。
ことばそのもののおかしさではなく、十七音の中に含まれている中身のおもしろさ、おかしさでなくてはいけません、健康的な笑いがおこるような句がいいでしょう。

化粧ぬい出たや 勘喰かんくろて 木戸まわ

母親が鏡台の前で化粧を始めたところ子供は母親の外出を直感。
それで、玄関に先回りして、置いてきぼりにされないように待っていたのです。
今までの子供の経験から察知したことを「勘喰ろて」という言葉で表現したのです。
子供からしてやられた時の母親の表情が滑稽に感じられる句です。

 

(二)皮肉味

人間の生活とか風俗・習慣などをとらえて、これをからかったり、諷刺したりする句を皮肉味の句といいます。
もちろん詠む素材をいろいろな角度から皮肉ったりする句であって、相手を軽べつするような句は好ましくありません。
皮肉も、こころよい皮肉というか、相手も笑って返せるような皮肉味が○。

口軽くっが 用心ゆじんしながあ 相槌えは

相手が口の軽い人だけに相槌の打ち方も用心をしながら打っている。
うっかり本音で相槌を打ちでもしたら、後でひどい目に合うことはわかりきっている。
注意しながら相槌を打つところに皮肉がきいています。

 

(三)穿ち味

薩摩狂句でいう穿うがち味というのは、その句を詠んだときに「なるほどそうだ!」と思わず共感を覚えるような句です。
表面に現れている言葉のおもしろさでなく、十七音の奥に潜むおもしろさの句です。

謝罪ことわいけ 禿はげん力を い上げっ

子供の悪事か大人の悪事かわからないが、謝罪に行くのに自分一人では、どうも行き難いし、また、ひとりで行っても許してくれそうもない。
そこで、世の中の酸いも甘いも噛み分けた苦労人である老人(禿)を連れて行ったのである。
それを「禿ん力を借い上げっ」と詠んだのです。

 

(四)真実味・人情味

人間の「まこと」というものは必ず相手の心に通ずるものです。「まこと」とは真実であり
それを詠んだ句が真実味の句であり、人情味の句と共通するものがあります。
人情味や真実味の句には人をほろりとさせるものがあり、感動させるものがあります。

とげを越え 看病かんびょ家族けねい れが出っ

今夜が峠であると医者に宣告され、家族の者たちは一睡もせずに看病する。
東の空が白みはじめるころ、病人の経過がよく、やっと峠を越したという家族の安堵がうかがわれる句です。

 

(五)時事吟

テレビ・ラジオ、新聞などのニュースなるような社会の出来事を詠んだ句が時事吟です。
時事吟は時の流れにつれて、忘れ去られる運命にあります。一つの事象についてタイミング良く発表されると効果があります。時期がずれると句としての生命がなくなることがあります。

海部かいふ丸 リモコンつっで 帆を上げっ

海部さんが総理大臣になって内閣が発足したときの句。リモコン付きで帆をあげたという
皮肉が効いて、当時としては面白い句でしたがもう今は通じないでしょう。

 

(六)その他

狂句味の中には、その他に、さらさらと詠んだ軽妙な狂句や、小さなことにこだわらず大胆な豪快な詠み方をした狂句、さらに季節吟といって、その季節の行事を詠んだものなどがあります。

 

三、字音の数え方について

上の空うわんそら|じゃっち太腿ふともも|つままれっ

上5 |  中7  |下5(座5)

最初に説明したように、さつま狂句は五・七・五の十七音からできていますが、
上の句をかな書きにすると十八字になっています。中7の部門が一字多いのですが
これは字音の数え方にきまりがあるからです。

(一)拗音ようおんは二字で一字に数える

拗音ようおんというのは、五十音の「や行」の「や、ゆ、よ」などを右下に小さく書くときです。

今日(きゅ)ーーーーーー1字

所長(しょ ちょ)ーーー2字

写真(しゃ し ん)ーー3字

(二)撥音はつおんは一字に数える

撥音はつおんというのはねる音で「ん」のことです。

天気(て ん き)ーーーー3字

新聞(し ん ぶ ん)ーー4字

(三)促音は一字に数える

促音はつまる音で、右下に小さく書く「っ」です

叱っ(が っ)ーーーーー2字

学校(が っ こ)ーーー3字

(四)長音は一字に数える

長く引いて発音するときに表す(ー)は一字に数える

レオタードーーーー(5字)

コード ーーーー(3字)

四、助詞の使い方について

鹿児島弁の特長は、短く縮めて言う場合が多いことです。

例えば「此処に」という場合「此処け」、「早く」という場合「よ」というように下につく助詞が変化します。

亭主ていしゅに→亭主
亭主ととに→亭主
かかに→
美事みごとに→美事みご
不仲ふなかに→不仲ふな

これらは一例であり、他にたくさんの使い方があるので、このような使い方に慣れるようにしていくことが大事です。
その他、漢字の当て方や狂句表現の手法などがありますが、他人の作品など多く読んで少しずつ勉強していくとよいでしょう。

 

五、鹿児島弁のなまり方

鹿児島弁は名詞や、動詞、形容詞などの語尾が微妙に変化する場合が多く
それを「なまる」といっていますが多数にわたるようです。次はそのうちのいくつかの例です。

(1)名詞の場合

  • (イ)「き」が「つ」に変化 てき→てっ 月、沖、滝、秋、柿、時、雪、席など
  • (ロ)「の」が「ん」に変化 干物ひもの→ひもん 着物、漬物、食べ物など
  • (ハ)「あい」が「え」に変化 挨拶あいさつ→えさっ 相性、相手、相槌
  • (ニ)「り」が「い」に変化 まつり→まつい 明かり、光、針、槍、霧、栗、蟻
  • (ホ)「み」が「ん」に変化 耳→みん 網、海、墨、涙、髪、神、畳、弓、波、鋏など
  • (ヘ)「る」が「い」に変化 昼→ひい あひる、車、猿、樽など
  • (ト)「たい、だい」が「て、で」に変化 たい→て 太鼓、大工、大黒柱、大根、大切など
  • (チ)語尾が保音「っ」に変化 足袋、旅、粒、土、唾、右、水、道など

(2)動詞の場合

語尾に「っ」に変化 る→ふっ

拭く、吹く、振る、噴く、巻く、撒く、張る、折る など

(3)形容詞の場合

「い」が「エ」に変化  多い、遠い、強い、速い
「ない」が「ネ」に変化  少ない、危ない
「い」が「レ」に変化  暗い、黒い

(4)その他、地名の呼び方

谷山「たんにゃま」 福山、日当山、松山

 

六、作句上の注意

薩摩狂句を作るうえで、注意しなければいけないことがいくつかあります。結論的に言えば、薩摩狂句の四つの条件を満たす句を作るように心がけるということです。

薩摩狂句の四つの条件

  1. 作品のもとにある材料は人間である。(素材は人間)
  2. 鹿児島の言葉を主体にして表現する(鹿児島の方言)
  3. 狂句独特の味わいを盛り込む(狂句味)
  4. 型式は、五音、七音、五音のリズム感のある十七字音にまとめる

初心者にはやや難しいような条件ですが、狂句作りに経験を重ねると「なるほど、この四つの条件は欠かせない」とわかってきます。
以上のことを念頭に置いて、狂句上の注意を述べます。

(1)素材は人間ー人間不在ではいけない。人間社会をとらえることが主体です。
動物、植物を詠む時は、それを人のように見立ててー擬人化ーして詠むことになります。

(2)鹿児島の方言を上手に使うこと

(3)狂句独特の味わいを盛り込むこと

(4)五・七・五の一七字音はきちんと守ること

(5)漢字の当て方に注意して使い分けること

(6)自分の句を作るー創作すること

(7)狂句の品位を保つこと

(8)目で確かめる狂句と耳で聴く狂句