なぜ鶏を刺身で食べるの?
東京出身の視聴者から寄せられた「鳥刺し」についての疑問、「どうして鳥を刺身で食べられるの?」です。濵田レポーターが取材しました。
鳥刺しについての疑問を寄せてくださったのは、家族の転勤で去年10月から鹿児島に住んでいる本郷貞美さん(48)、東京出身です。
「鹿児島では当たり前のようですが、なぜ鳥を刺身で食べられるんですか?鹿児島に越してきて、本当に良かったと感じるのは、美味しい刺身や魚と鳥刺しを食べてる時です。よほど新鮮なのでしょうか?」
新鮮な鶏のムネ肉やモモ肉をしょうゆにつけて食べる鳥刺し。肉の旨みが口いっぱいに広がる、鹿児島県民のソウルフードです。
鶏の肉を刺身で食べるのは、鹿児島と、宮崎の一部でしかみられない独特の食文化とされています。
(濵田レポーター)「まちのみなさんは「鳥刺し」についてどう感じているのか聞きました」
「Qよく食べます?はい。皮がついているのよりも、柔らかいほうが好き。」
「Qみなさん食べる?旦那が食べます。」
「福岡出身者:鳥を生で食べる文化がなかったので、すごい新鮮でした。美味しいと思います。うまみも強いし」
「Q鹿児島はなぜこのように食べるか知ってる?え~知らない。知らないです」
なぜ鶏を刺身で食べるのか?ヒントを求めて調べていると、鳥刺しの歴史が見えてきました。
県養鶏協会が1985年にまとめた鹿児島県養鶏史には、開聞町郷土誌の江戸時代の記録として、「行事には、鶏がつぶされササミは刺身となり」と書かれています。鳥刺しは少なくとも江戸時代から食べられてきたのです。
(鹿児島女子短期大学 福司山エツ子名誉教授)「鶏を飼っている家がいっぱい。みなさんそうだったから。お客様が見えると、おそばとぼた餅と、鳥刺しと、鶏の煮物と、鶏のお吸い物と、そういうものがあったら、最高のおもてなしだったわけです。」
鹿児島の食文化に詳しい鹿児島女子短期大学名誉教授の福司山エツ子さんです。昔は祝い事や来客があると、家々で飼っていた鶏をさばいてもてなしていました。しかし、生の肉は、焼いたり煮たりしたものに比べ、細菌が増えやすいはずですが、どうして刺身で食べられたのでしょうか?
福司山さんの考えるポイントは、さばく過程で熱湯をかけたり、表面を焼いたりすることです。この過程で、完全な「生」ではなく、いわゆる「タタキ」の状態になり、肉の表面の殺菌まで自然と行われていたのではと見ています。
(福司山名誉教授)「熱湯と産毛を取る焼き方を徹底していたのではないか。さばきの過程おいて、生といえば生の状態。だから刺しというんでしょうかね。焼くという工程なしに鳥刺しとはいえません。」
家々で料理していた江戸時代はそれでよくても、今の衛生基準はどうなっているのでしょうか?
実は、1998年に国は生食用の牛肉と馬肉について処理方法や殺菌などの衛生基準を定めました。
しかし、南九州独自の鶏肉の生食には基準が設けられなかったため、県は2000年に独自に基準を作りました。
包丁やまな板は83℃以上のお湯で殺菌し専用のものを使うことや食中毒を防止するため、解体方法や肉表面の殺菌、温度管理などを定めています。
(県生活衛生課 下島浩幸食品衛生専門監)「食文化である、生食用食鳥肉その安全を確保するためにはガイドラインをよく周知するということと、それに基づく指導を継続していくということが必要と考えています。」
ただ、食中毒には細心の注意が必要です。
こちらは全国で起きたカンピロバクターという菌による食中毒の発生件数です。
鶏肉以外のものも含まれますが、年間300件あまりで推移しています。
全国では、半生や加熱が不十分な鶏肉料理で、カンピロバクターによる食中毒が多発していて、飲食店で本来「加熱用」の鶏肉を生で提供したケースもあったといいます。
県内では、この5年間にカンピロバクターの食中毒が13件発生し、鳥刺しが原因だったものも1件ありました。
こうしたことから、鳥刺しの安全性を更に高めようと、今年、民間で飲食店や加工業者向けの資格が作られました。それが「鳥刺しマイスター」です。
こちらは多くの観光客が訪れる南九州市知覧町の郷土料理店髙城庵です。
「なんつぁならん!最高。」
「子どものころは、お父さんが鶏をおろして。よく食べました。刺身も含めて。」
先月、「鳥刺しマイスター」がいる店として初めて認定されました。
「鳥刺しマイスター」とは鹿児島と宮崎県の生食加工業者や飲食店など53社でつくる「鶏の生食加工業者協議会」が設けた資格です。
講習会の受講や学科試験に合格し、県と協議会が定める基準などをクリアした店と人を認定します。
(鳥刺しマイスター 髙城悟志さん)「マイスター制度を活用することで、飲食店側の食鳥肉に関する正しい理解が得られると思う。それによって、更に鹿児島の食文化、宮崎県の食文化がまた再評価されるのではないかなと思います。」
今回の「鳥刺しは、なぜ生で食べられるの?」の答え。
私たちが「鳥刺し」を美味しく食べられるのは、加工業者や店、県など多くの人たちの影の努力があるからなのです。
疑問を寄せてくださった東京出身の本郷さん、「鳥刺しを食べるときが一番幸せ。こんなにおいしいものをどこでも買えるのがすごい。毎日でも食べたい」とおっしゃっていました。