名前が付けられた救急車 鹿児島市は他都市より多いのはどうして?

街を走り回る救急車。
後ろの部分に書かれた車両名を見ると、個人の名前がつけられたものもあります。こうした個人名がつけられた救急車は、鹿児島市は他都市と比べても多いそうなんです。そのわけを取材しました。

男性や夫婦など、個人の名前が付けられた救急車。
いずれも鹿児島市で日々走り回っている現役の車両です。書かれている個人名は、救急車を寄贈した人などの名前です。鹿児島市では寄贈した人が救急車に名前を付けることができ、こうした名前入りの救急車が増えていると言います。

(鹿児島市消防局 米森徹救急課長)
「税金で更新することなので、更新がままならないこともあると思うが、ありがたいことに(寄贈する人の)気持ちで、順調に救急車を更新することができている」

鹿児島市消防局によりますと2022年に市内で救急車が出動した件数はおよそ3万6000件。およそ14分に1回出動している計算になります。

市民の命を守る救急車。
装備を除いても1台2000万円するとも言われていますが、わずか7年ほどで更新時期を迎えることから、自治体にとっては少なくない財政負担になっています。

実際、九州各県で必要な救急車の数に対する配備の割合を見てみると、2022年度では鹿児島と長崎、熊本を除く4県は100%を下回っています。

県内で最も人口が多い鹿児島市。
その救急車の配備を下支えしているのが、寄贈や寄付です。

その数は記録が残る1964年から現在までに、団体・法人から32台、個人から24台の合わせて56台。
最近、個人での寄贈も増えていて、現在所有する23台のうちおよそ7割にあたる16台が寄贈や寄付で購入したものです。

九州各県の県庁所在地と比べると、台数でみても、鹿児島市の多さは際立っています。
2桁の寄贈・寄付数は鹿児島市と福岡市だけで、所有している救急車に占める寄贈・寄付の割合は、どちらもおよそ7割に上ります。

(才納壽二さん)「下着や洋服を車に積んで。フランスベッドや洋布団も売っていた」

鹿児島市に住む才納壽二さん(89)です。
おととし、鹿児島市と出身地の奄美市に救急車の購入費の一部を寄付しました。才納さんは妻冨士枝さんと57年間婦人服店を営んできました。

10年ほど前、冨士枝さんが介護施設に入ったあと、けいれんなどで複数回救急車で運ばれたことをきっかけに寄付を決めたといいます。

(才納壽二さん)「妻とは57年暮らしてきた。もうショックでね。病院からの帰りに、救急車にお世話になったから、鹿児島市に救急車をあげようねと言ったら、良いことだねと喜んだ」

(才納壽二さん)「(Q.これが去年のですか)去年の9月か10月」

部屋にはこれまで寄贈した際の写真や感謝状が並べられています。

大島紬の生地を大阪の問屋に卸す事業でも財を成し、その恩返しにと、大和村にスクールバスなども寄贈してきました。感謝状や写真をもらうたびに介護施設にいる冨士枝さんに見せに行ったと言います。

(才納壽二さん)「喜んでくれる(Q.冨士枝さんは何て言われますか?)良いことしたねと」

才納さんは今後もさらに寄付したいと考えています。才納さんの名前が入った鹿児島市の救急車は去年、吉野分遣隊に配備されました。

(才納壽二さん)「(Q.寄贈した救急車の活躍はどうですか?)うれしいですね」

鹿児島市にこれまで救急車を寄贈・寄付する人は才納さんのように救急車に助けられた経験がある人が多いと言います。

(鹿児島市消防局 米森徹救急課長)「本人や家族の人が救急車で運ばれた経験がある人が、恩返しや社会貢献をしたいという理由で、寄付をすることが多い」

ただ、救急車に命を救われた人はどこの県にもいるはず。なぜ鹿児島市で寄贈が多いのかについて聞いてみると・・・。

(鹿児島市消防局 米森徹救急課長)
「具体的な理由は分からないが、こういった寄付をしている救急車が走っているので、それを見て私もという人がいるかもしれないが、具体的な理由は分からないところです」

九州の県庁所在地では寄贈が最も多い福岡市消防局にも理由を尋ねてみると、「名前のステッカーを見て、『寄贈したい』という人も何人かいるので、その広報効果もあって、近年増えていると思う」と同じ理由を挙げていました。

人口減少が加速する一方で高齢化も進み、救急車の重要性がより増している昨今、感謝と善意の連鎖が市民の命を守る救急車を支えているのかも知れません。