「逃げ遅れ」防ぐために 2年連続特別警報・伊佐市の教訓
鹿児島県伊佐市では去年、おととしと、2年連続で大雨特別警報が出されました。浸水した住宅から助け出された住民の教訓から、避難について考えます。
去年7月。北薩を中心に大雨となり、3市2町に大雨特別警報が出されました。未明に時間雨量94ミリの猛烈な雨が降った伊佐市では、排水が追い付かずに水があふれる内水氾濫が相次ぎ、80棟が浸水。逃げ遅れた35人がボートなどで救助されました。
(記者)「伊佐市大口中心部の交差点です。奥の道路とこちらの道路が坂になっているため、降った雨がこの道に流れ、一帯は冠水。深いところで腰ほどまで浸かったということです」
近くを羽月川が流れる西本町地区の国道267号沿いは、普段から雨が降ると水が溜まりやすい場所です。西本町地区では、太ももの高さまで水が上がる中、住宅に取り残されていた女性2人が救助されました。
(楠元彩子さん・延村民子さん)「ここから水がザーッと」「ここです」
あの時、浸水した住宅から救助される様子が映像に映っていた延村民子さん(70)と楠元彩子さん(53)です。
(延村民子さん)「このへんまではゆっくりだった。またいつもの通りかな、と。そしたらここからが早かった」
(楠元彩子さん)「夏だけど水がすごく冷たくて、下も見えないし、水の怖さを感じた」
延村さんは16年前の県北部豪雨でも自宅が浸水しましたが、その時は水が足首ほどまでしか来なかったため、去年は早めの避難は考えていませんでした。
しかし、水がたまり始めてからわずか10分ほどで腰の高さまで達する状況に。一人暮らしの延村さんを心配した楠元さんの家族が電話をかけて事態を知り、楠元さんと弟が延村さんの自宅に向かったのです。
(延村民子さん)「消防呼んだ?って聞かれたが、消防とか考えつかなくて。1人だったらどうなってたか分からないけど、みんなが助けにきてくれてよかった」
伊佐市ではおととし去年と、2年連続で大雨特別警報が発表されました。しかし、伊佐市が避難情報を最初に出したのは、おととしは特別警報から1時間後の午前6時、去年は特別警報と同じ午前5時半と朝の早い時間帯でした。
市の担当者は「危険な状況になる前に避難情報を出すのが理想」としつつも、予想や判断が難しいケースもあると話します。
(伊佐市交通消防防災係 森山誠係長)「暗い時間帯の避難は大変危険なので、避難指示などを出すべきかどうかは判断に迷うところがあった。去年のような突然の大雨は予測は難しいが、去年の経験も踏まえて早めに判断をできるようにしたい」
球磨川の氾濫などで死者・行方不明者が69人にのぼったおととしの熊本豪雨では、自治体の避難情報が深夜から未明の時間に集中しました。
球磨村が行った住民アンケートでは、球磨川の水位が急激に上がり「避難指示」が出された午前3時半ごろ、およそ8割の人が寝ていました。避難情報に気付かずに逃げ遅れ、亡くなった人もいるとみられています。
自治体からの情報を待っていては避難が間に合わないケースもある中で、命を守るためには?
防災心理学の専門家は、自治体や気象庁の情報も完璧ではなく、最終的には住民自身で避難の判断をすることが重要と話します。
(京都大学・矢守克也教授)
「自治体も気象台も神様ではないので、24時間後、48時間後に何が起こるか見通せているわけではない。自分や大事な人の命という一番大切なものがかかっている判断を気象台や自治体の情報だけに任せるのは危険。
『あそこの用水路が逆流し始めると危ない』とか危険のサインを自分たちでもキャッチして、最後は自分たちが逃げる逃げないの判断をすることが、逃げ遅れを防ぐ1番のポイント」
去年、内水氾濫が相次いだ伊佐市では、川内川支流沿いの排水ポンプを9台から15台に増やしました。
自宅が浸水した延村さんの部屋には、大雨の中でも避難の呼びかけが聞こえるよう、防災無線が設置されました。しかし、市の情報だけに頼らず、自分の判断で早めの避難を心がけたいと話します。
(延村民子さん)「無線を頼るんじゃなくて、様子を見たり、ラジオやテレビを聞いて判断する。今度からは絶対自分で考えて行動します」
本格的に迎えた大雨のシーズン。命を守るための判断は私たち一人ひとりにゆだねられています。