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「#71 グルメ」風の歳時記

決してグルメではない。と、自分では思っている。グルメが「美食家」や「食通」を意味するのだとすれば、どう考えてもボクがグルメであるはずがない。辞書によると、グルメなる人物は「高品質な食材や料理に対する深い知識や興味を持ち、味覚に関して独自の基準や価値観を持つ人。美味しい料理を好む人、食べ歩きを趣味とする人」とある。

「どんなものを食べているかを言ってみたまえ。君がどんな人であるかを言い当ててみせよう」…とは、フランスのブリア・サヴァランが「美味礼賛」の中で書いている有名な一節だが、この、上から目線のブルジョア趣味には、ついて行けないどころか、嫌悪感すら感じてしまう。

何度も書いているが、昭和の時代に山奥の中山間地、飲食店の一軒もなかった村で育ち、年に1、2回のデパートでのお子様ランチを除けば、来る日も来る日も母の手料理だけで育った。パスタ、当時はスパゲティと呼んでいたが、それを口にして、ウドンでも蕎麦でもないトマト味のヨーロッパ風の麺料理にびっくりしたのは高校生になってからだ。リゾットだの、ポトフだの、ビーフストロガノフだの、ミネストローネだの、知るはずもない。

 スーパーマーケットももちろん、ない。肉は貴重で高価なものだった。だから、母の料理の食材の大半は畑で採れた野菜か、週に二回オートバイにトロ箱を載せてやってくる魚屋さんから買い求めた干し魚だった。空腹が最高の調味料だったのかもしれない。母の出してくれる食事は、いつも、美味かった。

 つい最近、『ほんまに「おいしい」ってなんやろ?』という本に出会った。著者は京都の有名料亭「菊乃井」の三代目、村井吉弘さんだ。「何かを口に入れてウ~ンと目をつむり、やおら『うまーい!』とか、『おいしい!』とか叫ぶタレントさんの映像を見せられているうちに、私たちの感覚はおかしくなった。ほんまに、それ、おいいしのかいな」と、冒頭からグルメブームにもの言いをつけ、「このところの日本は『おいしい』の言い過ぎやないか、『おいしい』の大安売りやないか」と慨嘆する。

 もうひとつ、料理人一筋50年の村井さんが嘆くのは、東京・銀座の5万円も7万円もとる寿司屋。京都の料亭で一人5万円とるところなんてない。とった時点で普通の人は来なくなる。そもそも、食べに行く方も値段の高いのが上等やと思っている。食文化などとは縁のない、お金だけは持っているという人とそのお仲間が「料理」ではなく「価格」を食べている。値段が高くて狭い店、すぐに満席になり、この先3か月も予約が取れないような店が流行り、評判になる。そういう商売でいいのか、京都でも若い子がいきなり独立して、2万5千円の値段で商売を始める。地域のできるだけ多くの人たちに味わってほしいという公共性のかけらもない、と村井さんはひたすら嘆く。

 そういわれれば、この鹿児島にもそんな店があると聞いたことがある。そんな店の店主は、ぜひ、村井さんのこの本、『ほんまに「おいしい」ってなんやろ』を手に取って欲しい。

 実は村井さんの料亭「菊乃井」本店には一度行ったことがある。もう7,8年前のことだ。美味しかったこと以外、出されたメニューさえ思い出せない。何ということか。村井さんごめんなさい。    やはり、ボクはグルメではない。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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