MBCラジオ

「#33 雑談」風の歳時記

九州人は雑談が好きだ…

と作家の五木寛之さんが書いている。五木さん自身、福岡県の出身だから、きっと体験に基づいた実感なのだろう。そうか、九州生まれの人は雑談が好きなんだ、と、なんだか分かるような、分からないような変な気分でいたら、去年の暮れの新聞にこんな記事が出ていた。読んでみる。

「フレッシュマンは雑談が好き。シチズン時計が今春の新入社員400人を対象に実施したインターネット調査でこんな姿が浮かび上がった」

この記事によると、去年の春に入社した社員の37%、3人に1人以上が「会社で過ごす時間で最も好きなのは同僚、上司との雑談」、逆に苦手な時間のトップが「電話応対」だった。会社の中での仲間内での雑談は一番楽しいけれど、見知らぬお客様やお取引先からなどの電話の応対は気が進まないという心理は、さて、どういうことなのか。子どもの頃から、発信者が表示されて安心できる携帯電話に慣れていて、どこからかかってきているのかわからない固定電話には及び腰になるのかな、などとも思ってみたりする。

とまぁ、それはともかく、ふと頭をよぎったのは、「そもそも雑談とは何か」という、これまで考えたこともない、素朴な疑問だ。辞書をめくってみる。それによると「とくにテーマを定めず、気楽に会話すること。あまり重要ではない事柄をやり取りする。当たり障りがなく、とりとめのない話である事が多い」。つまり、雑談とは特に伝えたい用件があるわけではなく、思いつきで、お天気や食事、見聞きした出来事、ファッション、健康など、差しさわりのない会話のことを指すらしい。

「九州人は雑談が好きだ」という五木寛之さんの指摘は「九州人は思い付きで、いいかげんな話を好む」と読み替えられなくもない。鹿児島でいう「てげてげ」な話だね。

江戸時代、いや、もっと昔のこの国の人々は滅多に手紙を出すこともなく、プレゼンテーションも稟議書も契約も業務報告も企画書も、ほとんど無縁に過ごしていた。田んぼへの水引きの順番を巡って、村のオヤジ同士で「俺が先だ」「いや、こちらの順番だ」のトラブルはあったにしても、たいていは「寒くなってきたから焚き木を拾いにいこう」とか「今夜はうちでイッパイやろうか」といったゆるい会話で一日が終わっていたのだろう。考えてみれば、いまのボクたちの会話もほとんどが雑談だけどね。

明治維新後、この国の近代化が一気に始まる時代、新政府のやってることはちょっと違うんじゃないかと兵を起こした佐賀の乱や神風連の乱、秋月の乱、そして、西郷どんの西南戦争。どれもこれもここ九州で反乱の狼煙が上がったのも、すべてがシステム化され、国も企業も同じ方向に向かって足並みを揃える息苦しさを感じとっていたからかもしれない。きっと、本来自由人である九州の人には、上から押し付けられた効率的で実務的なやり方は向いていなかったんだろう。

雑談。いい加減で、差しさわりのない話を好む九州人。そのゆるさと鷹揚さ、こだわりのなさは、コンプライアンスだとかガバナンスという言葉がやたらに飛び交ういまとなっては「それもまた良し」だなと思う。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

関連記事

  1. ビーバームーン🌕
  2. オペラ協会の『名曲コンサート』開催!
  3. 6月12日(木)のセットリスト
  4. ひんやりスイーツで夏を乗り切ろう♪
  5. せっぺとべを見に行こう!
  6. 海鮮七海の新しいお土産品
  7. 🌈虹🌈
  8. 中小企業診断士の日にちなんでセミナー!

最新の記事

  1. 「ハート形 目玉焼き&スクランブルエッグ」と「オートミールマフィン」
  2. 図書館・科学館オープン 鹿児島市(1990・1991)
  3. たくちゃん

海と日本プロジェクトin鹿児島

PAGE TOP