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「#2 人間ドック」風の歳時記

「#2 人間ドック」風の歳時記

人間ドックを受けてきた。

 「おおむね問題はないけれど、少し気になるところもありますねぇ」

画面いっぱいに数字や画像が映し出されたパソコンの前で、ドクターの説明を聞く。黙って聞きながら、ボクの目は、窓の向こう、夏の日差しを受けてドライフラワーになりかけている紫陽花を見ている。生きたままアンティークな色合いに変化して、これはこれでいいな、と思う。盛りを過ぎたのに、いや、過ぎたからこそのヴィンテージの味わい。錆びたブリキやペンキが剥げた板壁、色褪せた敷物、木肌が赤茶けてしまった箪笥などもそうだけど、長い、長い歳月がゆっくりと磨き上げた不思議な魔力といったらいいのだろうか。

 そういえば、去年一年間に生まれた子供の数は72万人、これまでで最も少なかったそうだ。戦後間もなくのベビーブーム世代、今年、その全員が後期高齢者になるのだけれど、この団塊の世代は毎年270万人前後生まれていたわけだから、そのなんと四分の一!希少価値からいえば、いまの子供たちはかつての4倍の値打ちがある。

逆に言えば、たった四分の一の人数で、これから膨大な数に膨れ上がるお年寄りたちの老後を支えなくちゃいけない。この子たちの将来の負担の重さを思うと、気の毒を通り越して、可哀そうで、申し訳なくなってしまう。

 後先考えず借金を重ねる飲んだくれのオヤジじゃあるまいし、このまま次の世代にツケ回しをするようだと、いくら長い年月を生きたといっても「ヴィンテージもの」とは呼ばれないだろう。枯れてなお、侘び寂びの渋みを放つ紫陽花の花とは比べようもない。

「ま、いいでしょう。血圧と血糖値は大丈夫なので。ひとつだけ言うとタバコは早くやめた方がいいですよ」。

ドクターの声に、ふと我に返る。

誰が名づけたのか、この「人間ドック」という言葉。ドックといえば、船を作ったり、修理したりする施設だが、人間も長く生きれば点検修理が必要だということはわかる。それにしても、人間ドックとは…何とも無機質で温もりのない言い方だなぁ。

その人間ドックは、いまからちょうど70年前、1954年の7月12日、国立東京第一病院、いまの国立国際医療研究センターで始まった。で、今日7月12日は人間ドックの日なんだって。1年365日、なんでもかんでも「何とかの日」というのがあるんだね。

ドックに入ろうが、入るまいが、いずれ枯れるのなら、枯れるしかない。でも、枯れて、なお、歳月のやすりに磨かれた味わいを少しでも漂わせることができたらいいな、と思う。

あの紫陽花の枯れ花に負けないように。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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