100人のメッセージ

#65 杉本 寛喜 さん

今回は月に1回お届けする奄美の子供たちからのメッセージです。奄美の子供たちが書いたお話。
ネリヤカナヤ創作童話コンクールで入賞した作品を紹介し、その作者、小さな童話作家に作品に対する思い、奄美に対する思いなどを聞いています。
今回は当時、奄美市立小湊小学校5年生だった杉本弘樹さんが書いた作品です。

~本当のオットン~

「おぎゃー、おぎゃー」
太陽の光をサンサンに浴び、クロウサギの赤ちゃんが小湊の森に誕生しました。
セミたちも喜びの歌をミーンミンと大合唱しています。
お母さんになったクロも、みんなに祝福され、嬉しそうです。

でも、1人だけ違うものがいました。
赤い目でこちらを睨みつけるように見ているもの。
オットンガエルのオットンです。
オットンはひとりぼっちでした。
家族もいません。
背中にはゴツゴツとしたイボが並び、どす黒い顔でいつもムスッとしていました。
話もほとんどしないため、みんなに怖がられていました。
オットンが遠くからそのような様子で見ているなんて気付きもしないクロはみんなの笑顔に囲まれ幸せそうです。
オットンはその光景をいっとき見ていましたが、いつの間にか森の奥に消えていきました。

赤ちゃんが生まれてクロは大忙し。おっぱいをあげたり、オムツを替えたり、休む暇がありません。
でも、赤ちゃんがかわいくてたまらないクロ。
忙しくても毎日たくさんの愛情をかけ育てました。お母さんの大きな愛を受け、赤ちゃんはすくすく育ちました。

季節は秋になりました。
クロはいつものように赤ちゃんの餌を取りに森の奥の椎の木に出かけました。
紅葉した木々が今日もクロを迎えます。地面には自然の恵みがたくさん落ちています。
「赤ちゃんの好きな椎の実もいっぱい落ちてるわ。きっと喜ぶでしょうね。」
クロは赤ちゃんの喜ぶ顔を思い浮かべて、ふふふっと笑いました。
カゴいっぱいになった木の実を抱え、クロは家路を急ぎます。
「赤ちゃんおまたせ、美味しい椎の実がたくさんとれたわよ。」
でも、返事がありません。
クロは嫌な予感がしました。
寝室やトイレ、台所、いたるところを探しましたが、赤ちゃんはいません。
もう一度家の中を探します。
そのとき、何かの段差につまずき、クロは転んでしまいました。
それはオットンガエルの足跡でした。
まさかオットンが・・・。

黒は慌ててオットンのところへ向かおうとしました。
そのとき、ルリカケスのルリにぶつかりました。
「おーい、どうしたんだよクロ、そんなに慌てて。」
「オ、オットンが、オットンが私の赤ちゃんがさらっていったの。」
それを聞いて怒ったルリは空に羽ばたき、森中に聞こえる声で言いました。
「森のみんな!大変だ!クロの赤ちゃんがオットンにさらわれた!みんな手分けして探してくれ!」
「オットンだってよ。」
「クロの赤ちゃんがさらわれたって。」
森の中は騒然となりました。
森中の鳥たちは一斉に羽ばたき、モグラたちはこの葉の下や土の中を勢いよく掘ります。
他の動物たちは、捜索場所を決め、オットンが行きそうな場所をくまなく探し始めました。


太陽が西に傾き始めたときです。
「いたぞ!オットンがいたぞ!」
クロは無我夢中で駆け出しました。

「オットン、私の赤ちゃんを返して!」

「ママどうしたの?」
「怖かったわね、もう大丈夫、ママが助けに来たからね。」
「違うよ、ママ。オットンおじさんは崖に落ちそうになった僕を助けてくれたんだよ。それにママが帰るまで寂しいだろうから、一緒に居ようって」

オットンが誘拐犯だと思っていたクロはそれを聞き、自分が恥ずかしくなりました。

「ごめんなさい、オットン。私、あなたが赤ちゃんをさらっていったのだと。あなたのことを何もわかっていないのに勝手に怖い人だと決めつけて、ごめんなさい。」

それを聞いていた森のみんなも自分の行動を反省しました。

「いいよ。オレ、こんな見た目だし、人見知りでみんなとも話をしようとしていなかったんだから。オレも、もっとみんなにわかってもらおうとすればよかったんだよ。」

オットンの優しさに、みんなは涙をこぼしました。

小湊の森に冬が訪れようとしています。

オットンは、みんなとたくさん話をするようになりました。

今日はクロと赤ちゃんが、オットンの家に遊びに来ています。

小湊の森は、今日もみんなの笑い声であふれています。

Q:この話を書いた当時は奄美市立小湊小学校に通っていて、現在は奄美小学校6年生の杉本 寛喜さんです。寛喜さんよろしくお願いします。

寛喜さん:よろしくお願いします。

Q:とっても面白いお話でした。どうしてこのお話を書こうと思ったんですか?

寛喜さん:お父さんと、よく小さい頃から川や海に行っていたからです。

Q:奄美の自然をいろいろ楽しんでいる中で、このお話が浮かんできたんですね。

寛喜さん:はい。

Q:このお話にはオットンガエル、奄美のクロウサギが出てきますが、寛喜さんは見たことはありますか。

寛喜さん:はい。あります。

Q:小湊で見たんですか?

寛喜さん:はい。

Q:いろんな動物に出会えるんですね。他にはどんな動物に会いましたか。

寛喜さん:アカショウビンやルリカケスです。

Q:このお話で、一番工夫したところはどんなところですか?

寛喜さん:オットンガエルとか、他の生き物の様子とかです。

Q:いろんな生き物を登場させて、本当に奄美らしいお話になりましたね。お話の舞台というのが、寛喜さんが住んでいた小湊ですよね。小湊のどんなところが好きですか?

寛喜さん:すぐ歩いたら海とか山に行けるから。

Q:どちらにもすぐ行けるということですね。

寛喜さん:はい。

アナ:とっても魅力的な場所ですね。寛喜さん、またお話も書いてみてくださいね。

寛喜さん:はい。

Q:今日はありがとうございました。

寛喜さん:ありがとうございました。

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