雲仙・普賢岳から30年 火砕流のリスクとは

長崎県の雲仙・普賢岳の火砕流が発生してからきょうで30年です。
時速100キロ、温度は700度に達する火砕流は、火山災害の中でも最悪の被害を出します。県内の火山での火砕流のリスクなどについて、専門家に聞きました。緒方記者の報告です。


30年前の1991年6月3日、長崎県の雲仙・普賢岳の噴火により発生した火砕流。報道関係者や消防団員、住民ら死者40人、行方不明者は3人です。

雲仙岳の山頂部、普賢岳は1990年11月に198年ぶりに噴火し、5月に初めて火砕流が発生。6月3日の火砕流は最長で火口からおよそ4.3キロに達しました。

およそ4キロ離れた「定点」と呼ばれる高台には、多くの報道陣などが集まっていましたが、その「定点」も火砕流が襲いました。


(井村隆介准教授)「6月3日の大きな火砕流の5日前に撮ったもの。」

火山地質学が専門の鹿児島大学の井村隆介准教授です。大学院生だった30年前、火砕流による死者が出る5日前に、現地で撮影していました。
当時、火砕流の恐ろしさは一般には広く知られていなかったと話します。

(井村准教授)「火砕流がやってきて人が巻き込まれたら即死する、守る術はないということを研究者は知っていたが、一般の人はほとんど知らなかったと思う。火山は友達ではない、簡単に人の命を奪っていく」

火砕流は、噴火で放出された火山灰や軽石、火山ガスなどが一体となり、斜面を流れ下る現象で、時速100キロ以上、温度は700度に達します。

県内では、2015年に口永良部島で起きた爆発的噴火で、火砕流が2キロを超えて海に到達。集落近くまで迫り、1人がけがをしました。

(井村准教授)「火砕流が流れた跡ですね。今も煙が出ているところがある、木が下の方になぎ倒されている」

霧島連山の新燃岳でも2018年の噴火でごく小規模であるものの火砕流が発生。火口からおよそ800メートル流れ下りました。

また、桜島では、気象台にデータが残っている2006年以降、小規模なものを含めると45回の火砕流が起きていて、2008年の昭和火口の爆発的噴火では、1.5キロに達しました。

現在、桜島の噴火警戒レベルは3の「入山規制」で、火砕流への警戒範囲は火口から2キロとなっています。
しかし井村准教授は、大きな前兆現象なしに居住地に達するような火砕流が発生するおそれもあるとしたうえで、107年前の1914年に起きた大正噴火を念頭に置く必要があると話します。

(井村准教授)「桜島の大正噴火のときには海まで火砕流が達して、火口からその周辺全部木がなぎ倒されて、熱風で焼き払われたっていうことが桜島の大正クラスの噴火でもあった。これから近い将来予想されている桜島の噴火でも起こり得ること」

大正噴火での噴出物の総量は、雲仙・普賢岳の噴火の10倍にあたるおよそ20億立方メートル。

鹿児島市は、大正噴火級の大規模噴火に備え桜島から海を隔てて2キロの市街地側で、大量の軽石や火山灰が降り積もった場合の住民の避難計画を定めていますが、火砕流に関する想定はありません。
井村准教授は、「海を渡ってくる火砕流への想定が必要」と指摘します。


(井村准教授)「火砕流は海を渡る。桜島と鹿児島市の間には鹿児島湾があって海があるから、火砕流はそこで止まると思われてる方が多いが、海の上は障害物がないので火砕流はより遠くまで到達する。湾岸に住んでいる方は逃げなきゃいけない」

火山災害の中でも最悪の被害をもたらす火砕流。11の活火山を持つ鹿児島でも、雲仙・普賢岳で30年前に何が起きたのかを知り、他人事にしないことが重要です。

(井村准教授)「火砕流は火山噴火で特別な現象ではなく、鹿児島県の火山で火砕流の痕跡を見つけられない火山はない。ほかの地域で起きている火山の災害をきちんと知っておかないと自分のところで起きたときにはおしまいになる」

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