被害傾向から考える対策とは

鹿児島県内全域が梅雨入りし、連日、雨が続く中、シリーズで大雨への備えについて考えます。1回目は県内の災害の死者・行方不明者の傾向から命を守るためのポイントについて考えます。牛島記者の報告です。


連日の雨。奄美地方で5月5日、九州南部で5月11日に梅雨入りが発表され、県内も例年より早く大雨・台風などの災害リスクが高まる季節を迎えました。

県内の災害での死者・行方不明者は平成以降の32年間で214人に上り、特に8・6水害などのあった1993年は121人となっています。台風を除く大雨による死者・行方不明者は2000年以降だけでも23人を、性別でみると女性がおよそ7割を占めています。

年齢別では全員が40代以上、そのおよそ6割が65歳以上の高齢者でした。また、被災前に何らかの避難行動をしていたのは、23人のうち3人に留まりました。

災害の種類別では土砂崩れがおよそ6割で、次いで河川の氾濫、濁流、転落となっています。

具体的な事例では、65歳以上の高齢者が自宅で、裏山などの土砂崩れによって犠牲となったケースが23人中8人と最も多くなっています。そのひとつが3年前、鹿児島市の桜島で発生しました。


2018年7月、桜島の古里町で住宅の裏山が崩れ住宅を直撃。この家に住む山元虎彦さん(84)と妻の澄子さん(84)が犠牲になりました。

近くに住む甥の岩森正さんは、当日、鹿児島市全域に「避難準備・高齢者等避難開始」の情報が出されたことを受けて虎彦さんに2回、避難を呼びかけましたが、虎彦さんは避難しませんでした。また、岩森さん自身も結局、避難はしませんでした。

(岩森さん)「おばさんから電話が来て『避難するか?』と言ったら『雨も弱くなったから大丈夫』と言った。そんな話のあと崩れた。あの時を後悔している。ウチに来いと誘えばよかった」

「長年、住んでいてもこれまで被害はなかった」という先入観があったと、岩森さんは後悔しています。

(岩森さん)「自主避難だとなかなか腰を上げない。声をかけないと腰を上げない。大丈夫だろうと。高齢の人は1分1秒でも早めに避難してほしい。山の近くにいるならば犠牲者を出さないように」


災害時に避難が遅れ、失われた命。災害について研究している専門家は「自分は大丈夫」と危険性を過小評価してしまう心理、「正常性バイアス」が影響していると指摘します。

(鹿児島大学 井村隆介・准教授)「自分のところには起こらないだろう、過去にはそんなことは起こらなかった、という正常性バイアス。それによって逃げ遅れているということがほとんどだと思う」

それでは災害にどのように備えればいいのか?

(井村准教授)「逃げるのに当たって、正常性のバイアスと多数派の同調性のバイアスの二つが、やっぱり皆さんが避難行動を起こすためには一番足かせになる部分だと思う。それに打ち勝つためには、やはり正しい知識を持つことが一番重要だと思う」

井村准教授は「行政などが出す情報だけに頼らず、自分の地域にはどのような災害のリスクがあり、どう備えるのか?日ごろからわがこととして考えてほしいと話します。

(井村准教授)「よそで起きたことを人ごとにしない。避難所まで距離があれば早めに動かなければならない。夜になって暗くなると危ないならば、明るいうちに避難しなければという知識とそれを生かす、自分で考えるということが大事」

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