MBCラジオ

「#106 真夏の気がかり」風の歳時記

いやになるほどの暑さにうだりながら、休みの日はエアコンを一日中フル稼働させている。電気代が気にはなるけれど、そんなこと言っていられない。団扇と扇風機でしのいでいた子供の頃がウソのようだ。

最近は地球温暖化とはいわず、地球沸騰化、つまり、この惑星全体が煮えたぎっている状態というけれど、それに加えて、何よりボク自身の体力、抵抗力が落ちている。猛暑、酷暑に「忍び寄る老い」とを掛け合わせると、この先どうなることか。ついこの前、近くの公園の遊歩道のそばに落ちていた干からびた蝉の姿が脳裏をよぎる。やばい、やばい。

暇に飽かせて、久しぶりに随分前に読んだ文庫本を取り出してみる。50年も前に出された堺屋太一さんの小説『油断!』。中東戦争などによって日本への石油供給が突如止まってしまったらどうなるか。油が断たれる、文字通り、油断に警鐘を鳴らした一冊だ。堺屋太一さんが想定したのは「石油が全く入ってこなかったら、この日本という国はどうなるか」という、50年間を飛び越えて、いまでも十分あり得る危機的事態だ。

この一文が放送されるとき、アメリカ、イスラエルとイランとの停戦合意がどうなっているのかわからないが、ホルムズ海峡の事実上の封鎖はこの春からボクたちの暮らしを揺さぶり続けている。国家備蓄が何ヶ月分かはあるものの、それが底を突いてしまったら、まずはガソリンや軽油がなくなって公共交通もマイカーもストップする。当然、物流が止まって、スーパーやコンビニに商品が届かない。ネット通販、宅配便もいつになったら手元にやって来るか当てにならない。トラクターなどの農業機械や魚を採りに沖合に出る漁船の燃料もなくなり、農業用の窒素肥料も作れなくなる。プラスチックや洗剤、モノを包む包装資材の大半は原油から作られるナフサが原料だし、病院の必需品である注射器から点滴バッグ、手術用手袋、マスクなどの医療器具はもちろん、抗生物質や解熱剤などの薬の成分やカプセルもナフサなしでは作れない。加えて電気やガス料金も跳ね上がり、ひょっとして、大停電なんてことになったら、真夏のエアコンはもちろんのこと、スマホもパソコンもバッテリー切れで役に立たなくなるのだろう。

堺屋さんは、そういったリスクに加えて、デマが広がることで買い占めや銀行への取り付け騒ぎなどが起きることも心配している。新聞、テレビ、ラジオなど、それなりに信頼できる情報源だけしかなかった。インターネットも、ましてやSNSもなかった時代に、情報パニックの恐ろしさも強調しているのがすごいと思う。怪しげな情報があっという間に広がってしまう最近の風潮を考えると、いまなら、どんな騒ぎになることやら。

ホルムズ海峡の封鎖を受けて、この国の政府は「石油供給は大丈夫」の一点張りだったが、無用の騒ぎを起こさないためには、それもまたわからないでもない。ただ、ボクたちの命と暮らしが、エネルギーも食料も薄皮一枚の上で辛うじて保たれていることに気がつくためにも、「少しは日々の生活を見直してみようね」という節約、省エネルギーの勧めが説かれてもいいんじゃないかとも思う。「後悔先に立たず」を思い知る日が、いつか必ずやってくる予感がしなくもないのだ。

7月も残り一週間。それにしても、強力な太平洋高気圧がうらめしい。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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