
放送日:2025年3月6日
家族会議で決めたわけでもない。なのに、子どもの頃、テレビのチャンネル権はいつも父のものだった。とくに時代劇と、それに続くナイターの時間帯。観ているのは「水戸黄門」「大岡越前」「暴れん坊将軍」と、必ず最後に悪者が成敗されるドラマばかり。黄門さまの場合は、往生際の悪いご家老や家来、商人と大立ち回りを演じた末に、格さんがにわかに懐から印籠を突き出して「頭が高い。控えおろう!…この紋所が目に入らぬか」・・・必殺技の登場だ。
大岡越前も、江戸の町奉行として与力、同心、岡っ引きの力を借り、自らも時に着流し姿で街の様子を見て回る。最後は見事な名裁きでメデタシメデタシとなり、強きをくじき、弱きを助ける筋書きは、確かにストレスもなく、安心して観ていられる。「長寿ドラマ、かくあるべし」の代表格だが、幼少期からひねくれていたボクは、なぜ、格さんは家来たちとさんざん斬り合った末に印籠を出すのか、不思議でならなかった。「はじめからアレ出してたら、斬り合いにもならないのにねぇ」などと、つぶやく。父はジロッと横目でにらみ、黙っていた。
最近は時代劇がずいぶん少なくなった。それでも、休みの日の手持ち無沙汰な時には映画見放題のサブスクでこれまでの名作を観直してみる。黒澤明監督の作品など、何度観たことか。「七人の侍」「隠し砦の三悪人」「影武者」「蜘蛛巣城」…繰り返し観ても、毎回、さまざまな発見がある。ここ最近は、世代代わりしたスタッフたちによって、とくに戦国時代や江戸時代を舞台にした新作映画が増え始めてきた。どう想像力を働かせても奇想天外な、しかも、史実とは大違いなのだが、まぁ、歴史の教材じゃないのだから、と2時間ほどの時間を潰している。
ただ、気になることがある。映画に登場する彼ら彼女らが使っている言葉だ。確かに、「左様でござる」「拙者ごときが」「面目ない」「よきにはからえ」などの侍言葉を使って、当時の雰囲気を出してはいるのだが、先日観た映画で「ご自由になされば」とか「そろそろ解散するか」などと言っているのを聞いて、おや?と思ってしまった。二文字の熟語には明治以降に作られたものが多い。ボクの思い違いかもしれないのだが、「自由」とか「解散」とか、400年も前に使われていた言葉なのかなぁ。
辞書を調べると、明治時代に西洋のあれこれを漢字で表現した、いわゆる和製漢語は福祉、革命、文化、文明、民族、思想、法律、経済、宗教、科学、美術、文学など結構多い。時間が過ぎるの「時間」も明治時代に生まれた言葉だと知った。「さぁ、そろそろ参るぞ。もはや時間がない」などという台詞が時代劇に出てきたら、ちょっと突っ込みを入れてもいいかも知れない。
重箱の隅をつつくような話題になったけれど、もうひとつだけ言うと、最近の時代劇の登場人物がやたら早口なのが気になって仕方がない。物語にどっぷり浸かって、楽しめばいいものを、何ともイヤな性格だと、自分でもつくづく情けなくなる。
昨日5日は二十四節季の啓蟄。冬眠していた生き物たちが暖かさに誘われて顔を出す季節だ。これから春の盛りへの道のり、戻り寒波が邪魔などしてくれませんように…。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭








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