
放送日:2025年1月30日
我が家の裏山でカラスが鳴かない日はあっても、テレビでグルメ番組が流れない日はない。タレントたちが入れ代わり立ち代わり、日本列島からアジア諸国、果てはアラスカや赤道直下のアフリカまで足を延ばし、ひたすら食べる。直前のニュースで米の価格高騰や野菜の値上がりを伝え、「困った、困った」を連発する買い物客のインタビューを流していたのが噓のように、各地の美味珍味をひたすら食べる。ボキャブラリーに乏しいタレントたちは、一口頬張って「う~ん…」、二口目には眼球をわざとらしくグルグル回して「う~ん、うまい!」。なんだかバカバカしくなって、こちらが溜息をついてしまう。
いわゆるグルメ番組が始まったのは50年ほど前、TBSの「料理天国」からだという。芳村真理、西川きよしが司会で、辻調理師専門学校の講師が料理をつくり、二人が食べる。世界各国の料理を紹介して、この頃はまだ憧れの国内外の食文化を知る教養番組としての色合いが濃かった。
フジテレビの「料理の鉄人」もよく観ていた。プロの料理人が登場し、60分1本勝負で腕を競う。アメリカでテレビ番組に与えられるエミー賞にノミネートされ、アメリカや韓国などでよく似た番組、いわゆるコピー番組が誕生するほどの画期的な企画だった。番組内では当世一流の和食、洋食、中華のシェフたちのプロフィールが紹介され、その包丁技や鍋の扱い方などを細かに映し出す。このシェフたちの鮮やかな包丁さばき、味作りの技を見せられて、「料理人ってかっこいい」とその道に進んだ若者も多かったのではないか。
ところが、こうしたグルメ番組の性格を一変させたのが、テレビ東京の「大食い選手権」シリーズだ。第1回の放送は1992年というから34年前、バブルの名残がくすぶっている頃で、まず、予選会は30分制限時間内に寿司屋で食べる寿司の皿の数を競う。これをクリアすると丼専門店で天丼・親子丼・カツ丼の大盛りを食べる。そして、ステーキハウスに場所を移し、ここで3ポンド、約1.4㌔のステーキを食べ切る。さらに、中華に移ってギョウザ100個を食べる。いずれも制限時間は30分だ。これはもう、料理番組ともいえないし、ましてやグルメ番組でもなく、ただただ口と歯と食道、胃、腸を駆使した忍耐力比べ、耐久レースに過ぎない。「楽しくなければテレビじゃない」。そんなキャッチフレーズを掲げていたテレビ局もあったけれど、それは、「面白ければ何でも許される」ということではないだろう。
世はSNS全盛時代。たまに、本当にたまにだが、少し気取ってイタリアンやフレンチのレストランに出向いたり、回転しない寿司屋の暖簾をくぐることがある。ふと気が付くと、隣りの席でも、はす向かいの席でも、老若男女がまずはスマホを構え、あれこれと角度を変えながら撮影に余念がない。時に同席の人のピースサインを催促しながら、何枚も撮り続けている姿を見ていると、「おいおい、早く食べないと冷めちゃうよ」と声をかけたくなってしまう。
もちろん、「おっさん、いらぬお世話だよ」とにらまれるのがオチなので、当方は黙々といただくだけなのだが。
今回は、歳時記にほとんど関係のない、オヤジの愚痴になってしまった。ごめんなさい。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭









