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「#74 春夏冬二升五合」風の歳時記

銀杏の葉の色づきがおかしい。場所にもよるのだろう。例年通り、黄色く黄葉している木もあるのだが、染まり切れないまま、焼けてムラになったような葉っぱで立っている木もある。田舎育ちの友人は「今年の夏の猛烈な暑さと、そのあとのあまりに長い残暑で参ったんだろう」というけれど、さぁ、どうなのか。確かに、この夏の陽射しと気温は植物たちにとっても、相当なストレスだったに違いない。

夏から冬への道のりもあっという間だった。居酒屋などでよく見かける「春夏冬二升五合」という色紙や貼り出し。「春夏冬」は「秋がない」、つまり、商売の「商い」と読ませる。「二升五合」は「ますます繁盛」と読むのだが、この説明はいまどきの若い人たちにはなかなかわからないだろう。一升は焼酎の一升瓶などで今でも見られる、いわゆる1.8リットル瓶のこと。かつてはこの1升を測る木でできた1升桝というのが家庭でも使われていた。いまでも楽天やアマゾンで買えるけど、どの程度売れてるんだろう。つまり「二升五合」の二升は、この桝で二杯分、つまり桝が二つで「ますます」。そして五合は一升の半分だから「はんじょう」という語呂合わせだ。

「商いますます繁盛」とはよく言ったものだが、この語呂合わせ、「春夏冬」、つまり「商い=秋がない」が、あろうことか、現実の世界のものとなってきている。本当に日本の四つの季節、四季から秋がじわじわと脱落し始めているようだ。ちなみに九州南部の今年の夏の気温は7月から9月の平均で平年より1.2度高く、8月から10月ではなんと2.0度も高かった。ざっと数えたら、例年なら秋たけなわの10月だけでも鹿児島市内では16日もの真夏日、30度以上を観測している。秋だけでなく、ここ数年は春もあっという間に通り過ぎ、まさに二つの季節、「二季」が定着しつつあるような…。

日本に四つの季節がある理由は地球が自転する軸が傾いているからで、場所によっては太陽の高さが規則的に高くなったり低くなったりするためだ。とくに温帯、亜寒帯地域では季節がはっきり巡るけれど、赤道直下や南極、北極近く、砂漠などでは季節の変化がほとんど感じられない。四季を愛でるには、もっとも恵まれたポジションに日本列島は位置していたということだね。 

それぞれの季節に最も美味しい「旬」の食文化も、その時期にふさわしい衣類や装飾、あるいは四季の巡りに合わせたお祭りや行事、家の設えにしても、この国の生活文化のほとんどは、この四つの季節の移ろいに根差して生まれ、育ってきた。季節感を大切にする日本人の繊細な感性は、きっと、「もののあわれ」や「わび・さび」といった人生観、美意識にもつながってきたのだと思う。

その四つの季節が半分に減って、やがて、春と秋が抜け落ち、この国は冬と長い夏の二つの季節しかやって来なくなるのではないか。まさかねぇ、と妄想を振り払いながらも、このところの地球温暖化対策への歩みののろさを思うにつけ、冗談とばかりは言ってられなくなってきた。 気が付くと、はや師走。吹き付ける北風がことのほか冷たい。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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