放送日：2025年10月24日
気が付いたら、指で鼻先をいじっている。とくに車を運転しながら考え事をしているときだ。ぶつぶつ独り言を言う癖はないけれど、運転中にフアァ～と溜息をつく。何かに悩んでいたり、落ち込んだりしている訳でもないのに、訳もなく大きく息を吐き出している。
最近はしなくなったが、若い頃はふと気が付くと貧乏ゆすりをしていた。モノを書く仕事なのに、発想も言葉も浮かんでこない。イラついている証拠だった。ましてや原稿の締め切り直前になると、両膝の上下運動がどんどんスピードアップしているのが自分でもわかった。灰皿には煙草の吸殻が次々に投げ込まれ、ここでも溜め息の連続である。
最近、気づいたのだが、階段を上るとき知らず知らずのうちに頭の中で「いち、にぃ、さん、しぃ」と段数を数えている。なぜか、上る時だけで、下る時には数えていない。この癖はなんだろうね。もう一つ、自分のことでいうと、両足の間に布団を挟んで寝る癖もある。これって心理学的に何か説明できるのかもしれないけれど、子どもの頃からの癖だ。
「無くて七癖」という。どんなに癖がないように見える人でも、よく見れば必ず七つくらいの癖を持っているという意味だ。癖から逃れられる人はいない。ところが、自分の癖は、なかなか自分では気づかない。
そのつもりで周囲の友人たちの挙動を観察する。
「機嫌が良い時、いつも靴下を脱いでいる」「考え事をしていると自然に唇が突き出ている」「カフェでストローをむやみに噛み続けている」「脇の汗を手で拭ったあと、つい、その手を匂ってみる」…そんな男もいたなぁ、と思い出す。
ボクの知っている変わった癖といえば「車でトンネルを走っているとき、いつも、息を止めてしまっている」という友人がいた。九州自動車道の人吉・八代間、6キロ以上もある肥後トンネルだと苦しくて耐えられないだろうに。きっと閉所恐怖症なんだろうな。ほかにも、少し汚い話だが、鼻をかんだティッシュを必ず広げて見てしまうおっさんも。傘を持っていると、ついついゴルフの素振りをするおやじ。これは新型コロナ以後のことだが、真夏でもマスクを着けている人、女性に多い。あとは、爪を噛む、いつも、つい自分の髪を撫でている…心当たりのある人も多いだろう。
癖と習慣は違うらしい。習慣は「いい行動」を繰り返すことで、自然に身に付いたもの、朝の早起きとか、寝る前の歯磨きとか、日記を必ず書くとか。その一方、癖は無意識のうちに身に付いた、良いとも悪いともいえない行動なんだそうだ。
さしもの猛暑もようやく去って、秋たけなわの季節になった。朝夕は肌寒ささえ感じることもあるが、それでも平年に比べると気温は高い方らしい。夜長のひと時、暇に任せてネットサーフィン、いや、今はブラウジングというらしいけど、弾みで、ついつい、ちょっと贅沢な靴とバッグを通販で注文してしまった。もともと衝動買いなどしないはずのボクだけど、凌ぎやすくなる秋は、気分が解放されて財布の紐が緩み、隠れていた浪費癖が頭をもたげやすくなるのだろう。
自らをいましめる。 自戒、自戒の秋でもある。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間（今昔）など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭（いおりけい）が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手：美坂 理恵／エッセイ：伊織 圭
