MBCラジオ

「#66 地方から」風の歳時記

 政治に関心がないわけではない。むしろ、人一倍、政治や国際情勢、経済の動向に関心がある方だと、自分では勝手に思っている。ただ、悠久の自然の営みを映し出す歳時記に政治や経済を乗っけて、あれこれ語る気がしないだけだ。

 自民党の総裁選挙が終わった。横目でちらちら見ていただけだが、何か気分が高揚したかというと、ほぼゼロに等しい。物価高対策や年金・社会保障、子育て対策などお決まりの課題に加えて、すっかり手あかのついてしまった「地方創生」が、思い出したように声高に叫ばれたが、たぶん、それっきりになるのだろうな、と期待もしていない。

 以前、あるセミナーに参加したときの話。講師の一番手に立ったのは著名な未来学研究者のひとりだった。話の内容は人口減少、少子化、超高齢化を軸にしながら、これからの日本の行く末をグラフや数表を使って解説しただけだったけれど、話の終盤、こうした未来にどういう戦略で臨むかという話題になった時、唖然としてしまったことを覚えている。

彼いわく、「従来の東京依存から脱却し、自立完結型の地域づくりを」と力説したのだ。「地域のことは地域自身が自分で決めて自立し、自らの足で立つように」ってことだ。政府関係者やいわゆる有識者が最近、とみに強調するスローガンでもあるのだけれど、言い換えれば「政府にはそんなお金はないし、人材も送れないから、自分たちのことは自分たちでちゃんとしなきゃダメだよ」ということか。地域間の健全な競争により地方が創生できたり、活性化が図れたりって、誰もそんなこと信じていないだろうに。

とくに、カチンときたのは、「従来の東京依存から脱却し」という言い方だ。財政的に中央に頼らなければならい事情はさまざまあるが、そういう仕組みにしてしまった長年の国策を問うこともなく、「中央依存」を非難される筋合いはないだろうに…と、話を聞きながらいらだつ。鹿児島は、あるいは同じように人口減少や超高齢化と向かい合って踏ん張っている九州南部、東北、北陸、四国などの地域がどれほど東京に依存しているというのか。 もちろん農畜産物を首都圏はじめ大都市に出荷することや観光客を受け入れることで暮らしを成り立たせてはいるけれど、一方で高度成長期に若い人々を次々に送り込んだ結果が、現在の地域の崩壊にもつながっている。というより、むしろ、問題は東京だろう。首都圏エリアの「地域食料自給率」は、おそらく数%にも満たないはずだ。水資源もしかり。ましてエネルギー源となると、電力ひとつとっても首都圏での原発立地はゼロだ。日本列島を俯瞰してみると、東京ほど衣食住をはじめ、エネルギー、空気、保養などを地方に依存している地域はないだろうに。首都直下地震を想定するまでもなく東京を封鎖すれば、ものの一週間で首都の住民は干上がってしまいかねない。

自分の食い扶持さえままならないくせに、おカネをいじくり回しながら地方から生活必需品と若い人々を吸い上げて、平然としている人たちに「東京依存からの脱却」などとしたり顔で言われたくないよな…というのが、正直な気分だった。

タマには怒ることも必要だ。東京こそ地方依存から脱却して、銀座でコメを作り、東京湾でヒラメやブリ、カンパチを養殖し、新宿に原発をおっ立てたらいかがだろう。

戦後80年のこの国が行き着いた秋の風景は、どこか寂しくもある。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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