MBCラジオ

「#59 樹々の生命」風の歳時記

よく晴れた一日、霧島市の上野原縄文の森で、友人たちとともに植樹運動に参加したことがある。植えたのはシイやカシ、タブ、ツバキ、ヤマモモなど常緑広葉樹の十数種類。移植ごてで一本ずつ手植えしたあと、一面にワラを敷き詰め、最後はワラが飛ばないように上から縄を張る。

この植樹には、毎年、「世界のミヤワキ」として知られる宮脇昭・横浜国立大学名誉教授も参加されていた。たくさんの種類の苗木をばらばらにぎっしりと密植し、自然の成り行きに任せて競争・共存させながら「自然な形の森」を再生させるミヤワキ方式で知られる。当時、お年はもう90歳近かっただろう。トレードマークの麦わら帽子をかぶって、「生命と心と遺伝子」を守る本物の森づくりへの想いをたっぷりと聞いたものだった。その宮脇先生に尋ねてみたことがある。

「同じ種類の樹ばかり植えるのは、やはり、良くないのですか?」

先生、笑っていわく「同じような連中ばかり集めたって駄目だよ。会社だってそうだろ?自分の好きなタイプの人間ばかり集めたらロクなことはない。イヤな奴も混じってるから組織も伸びるんだ」

なるほどね、と思いつつも、「広々と間隔を空けて植えた方が早く成長しそうな気がするんですけどねぇ」と異を唱えてみる。先生はフフンと鼻を鳴らすように仰った。「木と木の間に間合いをとると、逆に成長が遅くなるんだ。苗木はねぇ、近くに他の苗があるのを気配で察するんだな。だから、早く伸びて、太陽光を多く浴びようとする。隙間なく密植することで、競争意識が高まるんだ」

気配で察する、か。目も耳も脳もない植物同士が…。しかし、あり得る話だとも思う。

今から50年ほど前、こんな実験が行われた。実験したのはアメリカのFBIの捜査官だ。

鉢植えの木を二つ置く。六人の人物を選び、そのうちの一人だけに片方の鉢植えの木を引き抜かせた。無事だった木の方に弱い電流を流して、木の表皮の電気抵抗の変化を調べてみる。いわゆるポリグラフ・うそ発見器の原理だ。その結果…何もしなかった5人が近づいた時には波形に何の反応もなかったが、引き抜いた本人が無傷の木の鉢に接近した時だけ、大きく針が振れたという。確かに、この鉢植えの木は仲間の木が誰によって傷つけられたかを知っていたということなのだろう。

花好きの女性が「おや、今日も綺麗に咲いてくれたね、ありがとう」と声をかける。樹木医が「大丈夫だよ、頑張れ。きっとよくなるからね」と病気の木に話しかける。返事も笑顔も返ってこないけれど、花も木もそれに応えてくれる。見えなくても、聞こえなくても、喋れなくても、それでも、確かに感じ取る力…。SNSもAIもいいけれど、どこかで、ボクたち人間は神が与えてくださった大切な能力を置き去りにしてきたのかもしれないな、と思う。

2時間ほどの植林作業が終わった。腰を伸ばし、薄くにじみ出た額の汗をぬぐう。抜けるような青空の向こう、霧島の山々の濃い緑が遠く連なっている。

宮脇先生が亡くなって4年目の夏が通り過ぎていく。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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