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「#53 虫占い」風の歳時記

梅雨のシーズンもあっという間だった。鹿児島本土は沖縄、奄美地方に先駆けて梅雨に入り、梅雨明けも平年よりうんと早かった。季節が半月ほど前倒しされた形で、一足早い真夏、酷暑の夏の到来だ。

奄美大島に年に何回も通う友人のオヤジから聞いた話では、奄美では「羽蟻が3回大量発生すると梅雨が明ける」という言い習わしがあるそうだ。そのオヤジいわく、「なんでも車のフロントガラスの前が覆われて、前が見えなくなるほどのハネアリの群れが出てくるそうで、それが繰り返されると、そろそろ梅雨も終わりだってことだね」。

「で、今年は奄美の梅雨は短かったけれど、3回もハネアリが大量発生したのかねぇ」とボク。友人が早速電話で聞いてくれたところによると、1回だけだったという説や、例年通り3回飛んだという話などさまざま。どうやら集落、地域によって差があるようだが、ハネアリが大量発生しないまま梅雨が明けることはないらしい。島の人たちは、このハネアリの大群の発生回数を数えていて、「もう二回飛んだから、あと一回現れたら梅雨明けだね」などという会話が交わされる。気象庁の予想より、この小さな虫の蠢きの方を信じている風だ。温かい湿った空気や前線の位置、太平洋高気圧がどうのこうのというより、気象衛星も何もない時代から言い伝えられてきた「虫占い」の方を大事にする気分って素敵だなと思う。

観天望気という言葉がある。「天、つまり自然を観察して気象の変化を知る」。自然現象や動植物の様子などを観察することで、その日や翌日の天気を予想することだ。気象衛星どころか温度計も気圧計も風力計もなかった時代、人々は自分の肌感覚か周囲の変化でお天気のこれからを予想するしかなかった。最も知られているのは「夕焼けの翌日は晴れ」だろう。日本列島はふつう、西から東へとお天気が移っていく。夕焼けは西の空が晴れ渡っているということだから、明日も晴れるに違いない。みんな、それを経験で知っていた。

「スズメの群れが木の枝で鳴いていると雨」や「お寺の鐘や谷川の音がよく聞えると雨」「ツバメが低く飛ぶと雨」「蜂が巣を低いところに作ると台風が多い」など、そういえば、子どもの頃、問わず語りに両親や近所のおじさんたちが話すのを聞いたことがある。

鹿児島では「桜島に雲がかかると雨が降る」という。毎日のように家から桜島の姿を見ていて思うのだが、雲の形や雲がかかっている場所、雲のかかる方向や流れによって、必ずしも雨になるとはいえないような気もする。ことわざ通りにシンプルに話が運ばないのも「言い伝え天気予報」の面白さかもしれない。

そのお天気ことわざの代表格は何といっても「暑さ寒さも彼岸まで」。寒さが春3月のお彼岸までというのは納得できても、去年、おとどしの夏から秋にかけての猛烈な暑さを思うと、今年も9月下旬の秋彼岸までに暑さが収まるとはとても思えない。

蚊帳の中で寝返りを打つボクを、母が団扇であおいでくれていた昭和の夜。いまではエアコンの効いた部屋で、焼酎のお湯割りをゆるゆると飲みながら、さしずめ、この心地よさと気候変動の怖さとを刺し違えているんだろうな、などと考えている。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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