MBCラジオ

「#51 焼酎考」風の歳時記

夏風邪だったのか。喉の奥に毛虫がうごめいているような、糸くずがひっかかっているような。そんな何日かが過ぎて、朝に目覚めると、すっかりイガイガが取れて、まるで何事もなかったかのように元の声に戻っている。医者にもかからず、薬も飲まずだから、まだまだボクの免疫力も捨てたものではないと、一人悦に入って、その勢いで「日本酒を楽しむ会」なるものに行ってきた。

全国各地の日本酒を少しずつ、チビチビと味わいながら、ついでに、海の幸、山の幸を、という趣向なのだが、それにしても、たまに飲む日本酒は旨い!純米、吟醸、純米吟醸に大吟醸、さらに甘口、辛口とそれぞれに口の中に広がる香り、味わい、舌触り、喉を通り抜ける感触は実にバラエティに富んでいる。精米度が低かったり、醸造用アルコールが加えられていても、むしろ、そちらのほうが味わい深かったりするのは、ボクの味覚が鈍いからなのか、それとも、それが日本酒ならではの奥深い魅力なのか。

ここ鹿児島は芋焼酎の王国。あまりに堂々と日本酒賛歌を歌い上げると、白い目でにらまれそうだが、弁解をさせてもらうなら、日ごろ飲むのは圧倒的に芋焼酎、もしくはサトウキビ原料の黒糖焼酎だ。黒糖は、仕事の縁で奄美大島を訪ねることが多かったためでもあるのだろう。芋焼酎は友人たちと賑やかに盃を重ねる時、黒糖焼酎は手持ち無沙汰な夜の独り時間によく似合う。

鹿児島を代表する、芋と黒糖の二つの焼酎を飲みながら、ふと、気づいたことがある。これから先は独断と偏見の世界に入るのだが、焼酎という酒はどうも近親憎悪、というと大げさだが、焼酎の原材料によって、互いに反発し合うキャラを持っているのではないか。例えば米焼酎を専らとする肥後・熊本のオヤジたちは麦や芋の焼酎をほとんど口にしようとしないし、麦焼酎に馴染んでいる大分のオッサンたちは芋や米の焼酎に見向きもしない。どの地域でも日本酒やビールは、出されれば抵抗なく飲んでいるのに、種類の異なる焼酎同士だと妙な反発力が働いているようだ。その中で、芋と黒糖だけは不思議に仲がいい。鹿児島県内では、芋でも黒糖でも、どちらを飲んでもすんなりと受け入れられる。

それはそれとして、サラリーマン人生を送ってきた身としては、焼酎は救いの神だった。なにが?って、焼酎一番の魅力は何といってもほとんど無色透明であることだ。いやな上司と飲みに行き、飲むほどに酔うほどにしつこくなる小言、忠告、自慢話に不平不満、大言壮語の後に急に泣き出したりで始末に負えないとき、こっそりと自分のグラスにお湯を注ぎこみ、限りなく白湯に近い状態でやり過ごす。これは、割らずにそのまま飲む日本酒やワインなどの醸造酒では無理だし、ウィスキーの水割りだと色合いが薄くなって気づかれてしまう。付き合いきれない相手から難を逃れたいサラリーマンにとっては、焼酎こそ最高の味方だと思う。

ちなみに、焼酎はお湯割りのイメージからか、冬の季語だと思ってる人もいるけれど、実は今の季節、夏の季語。夏の身体の湿っぽさと疲れをとってくれるからだという。

さて、今宵は芋にするか、それとも黒糖にするか。グビリと喉元をくぐり抜ける、得も言われぬ感覚を想像しながら、焼酎王国・鹿児島に暮らす幸せをかみしめる。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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