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「#48 水無月の頃」風の歳時記

先月中旬、はるか南の沖縄や奄美地方を飛び越えて、平年より2週間も早く梅雨入りした九州南部。梅雨前線は南から北に移動するものと思い込んでいたのだが、今年は本土から奄美地方へと逆コースになった。ニュースで聞いたときには、何かの間違いで、後になって気象庁が「ごめんなさい、早とちりでした」と苦笑いしながら訂正するんじゃないかと、思ってもみたのだけれど、その後の降りようをみると、確かによく降る。気象台の予報能力はすごいなぁ、と感心してしまう。

そして、6月。旧暦の呼び名でいうと水の無い月、「水無月(みなづき)」。一年のうち、もっとも雨が降り、水の溢れるこの6月を水の無い月とはこれいかに…。

水無月と呼ぶ由来はいろいろ言われているが、一つの有力な説は、水無月の「な」つまり「無い」という字は当て字で、「ない」ではなく、「の」だという説。つまり、「水の月」が「みなづき」と訛ったという訳だ。これだったら、まさに雨の時期、6月にぴったりだ。

もうひとつ。旧暦6月は、今の暦で言うと6月末から8月初めにあたる。鹿児島ではそろそろ梅雨が明けて、真夏の太陽が照りつけ始める時期だ。しかも、「梅雨明け十日」という言い習わしがあるように、梅雨明けからしばらくは太平洋高気圧が安定して、晴れた暑い日が続く。せっかく水を張った田んぼも干上がって、お百姓さんをやきもきさせかねない。そう考えたら、旧暦6月が「水の無い月」、つまり「水無月」と呼ばれるのもしっくりくる。

昨日、6月5日は二十四節気のひとつである「芒種」。芒種の「芒」は「のぎ」とも読んで、稲の穂の先のような尖った部分を指す。芒種とは、つまり、米などの穀物の種を蒔く季節ということになるけれど、田植えではなく、種を蒔く時期にしては遅すぎないか、と、こちらは、少し違和感がある。

若い頃、その若さに任せて、シルクロードや中東、アフリカなどをうろついたことがあった。中央アジアや中東の砂漠地帯はもちろん、ケニアやタンザニアなどの中央アフリカでも、本当に雨が少ない。スコールのように突然襲ってくる雨があっても、すぐにカラリと晴れ渡る。しばらくして日本に戻ってくると、この島国では春夏秋冬絶え間なく雨が降り、そのおかげで山という山のすべてが青々とした緑に覆われていることに気づく。そもそも日本列島には乾いた季節、乾季がないのだ。

カラカラに乾いた地域の文化って、すべてのモノの輪郭がはっきりしているからなのか、何にでも白か黒かの決着をつけたがる傾向があるんじゃないかな。それに比べて、四季を通して雨が降り続ける日本の文化は湿り気の文化。少々のことは曖昧なまま、なぁなぁで、すっきりさせたがらない湿っぽい世界が落ち着くのだろう。

そういえば、昭和の時代。あの頃の歌謡曲って、何かというと「雨」が歌われていた。幼い頃の古里を思い出すとき、不思議に雨の日の風景が脳裏をよぎるのも、日本人の湿り気の文化の遺伝子のせいなのか。災害だけはごめんだけれど、この季節、蕭蕭と降り続ける雨はしっとりと心に沁みる。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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