MBCラジオ

「#47 一所懸命」風の歳時記

「一所懸命」と「一生懸命」、この微妙な違い、聞き分けられますか?もう一度、「一所懸命」と「一生懸命」…。一所懸命は「一つの所に命を懸ける」、一生懸命は「一つの生、生きることに命を懸ける」。よく耳にする言葉だが、さて、どちらが正しいのか。

言葉の成り立ちからいえば「一所懸命」、つまり「一つの所に命を懸ける」が正しく,辞書を引くと「一所懸命の地」という形で、主に中世、武士たちの間で使われた言葉のようだ。武士たちが持っていた領地の中でも、死活にかかわるほど大切で、重要だった土地に命を懸ける。それが、江戸時代から「一生懸命」、一生を賭けるほど必死になって頑張るという言葉に変わってきたようで、いまでは、どの辞書もほとんど「一生懸命」を本見出しにしている。

唐突に、この言葉が気になったのには訳がある。このところ、とくに去年の夏過ぎ頃から始まったお米の値段の急騰だ。スーパーなどの店頭からみるみるうちにお米が消えて、去年の6月に5キロあたり2200円程度だったのが、いまでは4200円ほど。2倍近くに跳ね上がったまま高止まりしている。今年3月に政府の備蓄米の放出が始まったけれど、焼け石に水とはこういうことをいうのだろう。

人呼んで「令和の米騒動」。なぜこんなことになったのか。新聞やテレビで専門家がいろいろな背景や原因を挙げているが、どれもわかったような、わからないような…。いずれにしろ1年間でお米の値段が2倍に跳ね上がるというのは尋常ではない。ボクの場合は田舎で米作りをしている同級生が毎年玄米を送ってくれるので助かっているのだが、これでは、諸物価高騰の折、食べ盛りの子供を抱えた家族、少ない年金で厳しい生活を余儀なくされているお年寄りたち、切羽詰まってしまうだろうと胸が痛む。

調べてみると、日本人1人当たりの1年間のお米の消費量がピークだったのは、今から60年ほど前、120キロ近くを食べていた。いまは50キロそこそこ、半世紀ほどの間に半分以下に減っている。「我ら日本人の主食はお米」というのが何の疑いもなく、自然な感覚で受け止められていたのだけれど、どうやら、いまの時代、お米は脇役に追い込まれているようにも見える。三菱総合研究所の調査では、お茶碗一杯分のお米の値段は57円で、6枚切り食パンの一枚の32円の2倍近く。主食であったはずのご飯が高嶺の花になりかねないとは…と溜息のひとつもつきたくなる。

一所懸命。一つの所に命を懸ける。言い換えれば、この言葉は小規模な狭い土地に全身全霊を打ち込み、手をかける、水田作りの鉄則を強調したものと思えなくもない。水田は手をかければかけるほど肥えた土地になり、生産量も確保できる。狭い国土でひたすら稲を作って生き延びてきた日本人にぴったりの勤労感覚が「一所懸命」の言葉に託されていたのだろう。

お米の価格高騰で本当に困っている人たちへの支援を急ぐのは、もちろん、当たり前のことだ。それでも、食パン一枚より、茶碗一杯のご飯が高いことには、妙に納得してしまうボクがいる。

子どもの頃、奥深い農村で、田んぼと一緒に育ったDNAのせいなのかも知れないけれど。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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