
放送日:2025年5月16日
この土曜日、ショッピングセンターに出掛けて、以前から気になっていたジャカランダの苗木を買ってきて、大きめの鉢に植えてみた。前回は、そこそこ育つには育ったのだが、花が全く咲かない。水や肥料をやるのをサボり気味だったからなのか。そのうち枯れてしまった。一念発起の二度目の挑戦である。このジャカランダの青紫の花には、忘れられない思い出があるのだが、それは、また、改めて。
あれやこれやで、ふと気が付くと、もう日曜日の夕方。テレビから「お魚くわえたドラ猫 追いかけて…」と「サザエさん」のオープニングソングが流れてくる。「そうか、明日から、また仕事だなぁ」。緩み切っていた心と身体にモゾモゾと仕事の虫が潜り込んでくる。
お休みモードだった全身に仕事スイッチが入って、解放されていた心の風船がにわかに萎み始める時間だ。
世にこれを「サザエさん症候群」と呼ぶのだそうだ。ひどい場合は頭痛やめまいなどの症状も出るというのだから、穏やかではない。
その原因は、実にさまざま。●会社での人間関係がうまくいっていない●上司との関係が悪い●出たくない会議がある●仕事内容が覚えられない●とても忙しくて仕事のことを考えただけで憂うつになる●そもそもやりたい仕事ではない…などなど。
このように、「会社に行きたくない」原因に思い当たることもあれば、「原因が何なのか、自分でもよく分からない」場合もあるのだろう。漠然としたサザエさん症状、仕事以外のことが原因かもしれないし。
居酒屋で、得意そうに昔の手柄話をしたがるオジサンは、どこの会社にも必ず一人や二人いる。ボクも若い頃、何度付き合わされたか。そんな時は焼酎のお湯割りをほとんど「白湯状態」にまで薄めて、時が経つのをひたすら待ち続けたものだった。いかにモーレツ・サラリーマンで、リゲインを飲みながら24時間戦っていたか、いかに素晴らしい業績を上げたか。八方ふさがりの絶望的な状況を、どれだけの根性で乗り切ったか…そんな昔話ばかり。大袈裟に「へぇっ」とうなづいてみせたり、時に「さすがですねぇ」とおべんちゃらを言いながらやり過ごしたのも今は昔。所を変えて、いまやボク自身がかつてのオジサンの振る舞いをしていないかと気になってしまう。
遥か彼方、若き日の栄光の記憶だけを拠り所に生きていくのも、なんとも寂しい。でも、ふと思うのは、そんな「勤労は美徳」という時代をひたすら走ってきたオジサンたちも、本音のところ、もっと楽をしたいし、怠けたいし、遊びたかったんじゃないかな。頑張り屋に見えるあの人だって、いつも元気一杯に見えるあの人だって、それほど強いわけじゃなかったのだろう。
「人生100年時代」などと言われているのに、過ぎた日々への郷愁を引き摺るだけの毎日では本当にもったいないな、と思う。何しろ、今日という日は、ボクのこれからの人生で一番若い日なんだから。 時は五月…。街路に並ぶクスの老木たちの新緑が眩しく輝く季節。モーレツ社員OBのおじさんたち、まだまだ枯れるには早すぎるんじゃないかな。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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