MBCラジオ

「#29 すっぴん」風の歳時記

「男にはかなわない、と思うことが一つだけある。彼らがすっぴんで堂々と生きているということ。そして、すっぴんの彼らが立派に鑑賞にも耐え得ているということ」

 去年、といっても、ほんの一か月前の12月下旬のことだが、全国紙の随筆欄に掲載された一文だ。筆者は鹿屋市に在住の87歳の女性。読みながら、う~んと考え込まされた。もう、ずいぶん長い間、「男」として生きてきたけれど、自分が「すっぴん」であり続けていることを、ことさら意識したことは、一度もない。

 いまでこそ、ドラッグストアなどに入るとメンズコスメのコーナーにはさまざまな男性用化粧品がずらりと並ぶ。肌荒れ、シワ、肌の色対策などをうたって、化粧水、保湿クリーム、洗顔美容液などのオンパレードだ。田舎で人目はばかることなく自由奔放に走り回っていた昭和育ちのボクたちからみると、男がすっぴんなのは至極当たり前のことだった。大人になって髪を調える整髪料、髭剃り負け対策用のクリームを使う程度のことはあっても、「男が化粧」なんて考えたこともなかった。時代が変わったな、と思う。

 モノの本を読むと、平安時代の後半には、当時のお公家さん、貴族の男性が女性を真似て眉を白く塗ったり、歯にお歯黒を塗ったりしていたそうだ。清少納言の『枕草子』にも男性のメイクについて「白化粧がムラになって見苦しい」などと書かれている。貴族の男性の間では身だしなみとしての化粧が当たり前だった時代もあったんだな。

 女性の随筆に話を戻すと、「すっぴんの彼らが立派に鑑賞に耐え得ている」と仰っている。そう言っていただけて、まことにもって、恐縮するしかなく、「イエイエそんな…そもそも鑑賞されているという自覚はほぼゼロなんですよ」と弁解のひとつもしたくなるのだが、これには世の男性から「それは、お前だけだろう」と強烈な反発を喰らいそうだ。見た目、身だしなみ、たしなみに欠けているのは、ボクだけなのかもしれないから。

 ただ随筆の筆者である87歳の女性は、「お肌の休養」と言い訳しながらお化粧をよくサボるのだそうだ。そのくせ、眉を引き、唇に紅をさすと、気合が入るのだから不思議だと書いてらっしゃる。このあたり、ウンウンとうなづく女性も多いのだろうな。ボクにも何となく、お化粧と気合の相関関係がわかるような気もする。

 正直に言うと、女性がお化粧にかける時間、人によって違うのだろうけれど、毎日のこととなると、さぞ面倒だろうな、と同情のひとつもしたくなる。ただ、すっぴんで自然体で、何もせずに男たちが素のままでいられるかというと、決してそうでもない。

 これまた個人差もあるので何とも断定しがたいのだが、ボクに関していうと、問題は顔のヒゲだ。社会人になってから、休日はともかくとして、ほぼ毎朝洗面台に向かい、せっせとヒゲを剃る。面倒と言えば面倒な作業だ。

 すっぴんで堂々と生きているように見えて、昭和のオヤジたちもほんのわずかの努力はしている。ただ、個人の実感でいうと、髭を剃って「さぁ、やるぞ!」と気合が入ったことは、残念ながら、一度もない。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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