
放送日:2024年12月13日
はっと気づくと、令和6年、2024年も残り半月あまり。
元日早々、能登半島を襲った大地震、その翌日には羽田空港での日本航空機の衝突炎上事故の生々しいライブ映像に息を吞んだのが、まるで昨日のことのようだ。この時節になると、柄にもなく来し方1年のあれこれを振り返ってしまうのだが、それにしても、月日の流れの速さとはいったいなんだろう。
うんと以前、先輩から聞かされたことがあった。
「30歳代は1日が、40歳代は1週間が、50歳代は1か月が、60歳代は1年が束になって飛んでいくんだよね」。
その伝で言えば、70歳代に入ると、10年が束になって飛び去っていき、すぐに平均寿命に達してしまう計算になる。クワバラクワバラ…。
年齢を重ねるにつれ、時間が走り去るスピードが速くなる。そんな実感は誰しも経験しているのだろう。この「時間の心理的長さは年齢に反比例する」という不思議な現象は、ジャネーの法則と言われている。例えば50歳の人の1年の長さはそれまでの人生の50分の1だけど、5歳の子供にとっては1年は5分の1に過ぎない。つまり、5歳児の10年分を50歳のオジサンは1年の感覚でやり過ごしていることになるのだから、速いはずだ。言われてみれば、何となくわからないでもない。子どもの頃に、クリスマスや冬休みを迎えて「あぁ、今年もあっという間の1年だったなぁ」などと感慨に浸った記憶はないものねぇ。
ただ、本当にそうなのか。暇に飽かせて、年齢と時間の速さを反比例させて計算してみる。記憶の乏しい4歳以前を除いて、5歳から平均寿命の80歳過ぎまでをこの法則に当てはめると、時間感覚の上での人生の折り返し点はなんと、中高校生くらいの年齢になってしまう。それに、例えば100歳のご長寿者。おそらく1年の長さが子供の3、4日間の感覚になってしまうはずなのだが、ゆるゆると縁側で日向ぼっこをしてらっしゃるお年寄りを見ていると、とても、そんな急かされるような空気を感じることはできない。
ただ、この「時間」という曲者、年齢だけではなく、私たち自身の心理状態によって長くも短くもなるというのは、みんなが身近に感じている。だって、偉そうに訓示を垂れ、昔の自慢話を延々と続ける上司との飲み会は、気が遠くなりそうなほど長く、ウンザリする。逆に最愛のパートナーと過ごす時間は、誰にとっても「時のたつのも忘れるほど」に足早だもの。
ひたすら過去から未来へ飛び続ける「時間の矢」には抗う術がない。けれど、年齢と環境、その時の気分、感情で加速したり、ブレーキがかかったりする。時の経つのを長く感じることが必ずしも幸せということでもないし、反対に瞬く間に通り過ぎるからこそ、大切なかけがえのない「ひととき」だったともいえる。
時計とカレンダーで刻み続けたこの一年も残りわずか。ボクの、ボクだけの心が刻んでいるもう一つの時計の針をじっと見つめる季節でもある。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭









