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「#20 七五三」風の歳時記

「#20 七五三」風の歳時記

足元は見えないけれど、紺色の学生服に学生帽子、半ズボンの少年がニコリともせず、真正面に向かって立っている。背景には、いかにも昭和時代というくすんだ家並みが続き、それに並行して高圧電線が左右に横切る。そういえば家の近くに変電所があったなぁ。少年の左手には千歳飴の袋がぶら下がっていて…これが、残っている私のたった一枚の七五三の写真だ。両親の姿はない。上からのぞく古びた二眼レフカメラを父が持っていたから、たぶん、父が撮ったのだろう。

写真は1枚だけ残っていたものの、自分自身が七五三のお参りに言った記憶は消し飛んでいる。その頃、歩いて15分くらいの所に、地元としては由緒正しい神社があったので、両親に連れていかれたのだろう。提げていた千歳飴の袋には紅白の長い飴が入っていたはずで、当時の子供としては貴重品だったのだが、「親の心子知らず」というべきか、こちらも、さっぱりと記憶から抜け落ちている。

子どもたちの健やかな成長を祝い、祈願する七五三は、その名の通り3歳、5歳、7歳で行われる。七五三の由来は平安時代の頃から宮中で行われていた3つの儀式が基になっているといいい、全国各地で微妙にやり方を変えながら、江戸時代になって今の七五三の形が出来上がり、庶民に広がったのは明治時代以降だとのこと。

いまに比べると不衛生な環境で、薬も医療もワクチンも消毒液もなかった時代、子どもの死亡率はとても高かった。はっきりした資料はないけれど、江戸時代でも生まれた子供の半数以上は1歳までに亡くなっていたといわれる。その頃、「7歳までは神のうち」といわれ、7歳になるまでは「いつ神様にお返ししてもおかしくない」、つまり、神の子としてお預かりしているという扱われ方だった。つまり、無事に7歳まで育って、初めて人として一人前であると認められるわけなんだね。3歳、5歳の節目ごとに神様に「健やかに育ちますように」と祈り、7歳を迎えてホッと息をついて「あぁ、この子も神様の加護のもとで、さまざまなリスクを乗り越えて一人の人間になれました」と感謝の思いを捧げる。

この時期、あちこちのお宮で晴れ着姿の子供に両親や祖父母まで付き添っての七五三参りをみかける。本殿では太鼓が鳴り、沿道にはポツポツと露店も店開きして、穏やかで優しい秋の時間が過ぎてゆく。

「7歳までは神のうち」

「7歳まではいつ神の世界に連れ戻されるかわからない」

乳幼児の死亡率が極端に高かった、そんな切なく、悲しい時代は遠い過去の話になったけれど、お宮参りに足を運ぶ親子の光景は、「かけがえのない子どもたちの幸せを祈る自然な姿」を思い出させてくれて、心がホッと緩んでくる。

ちなみに今日11月15日、七五三の日は元々旧暦で祝われていた。旧暦15日は月満ちる満月の日。11月の1と1、15日の1と5を足し合わせると末広がりのめでたい「八」になるのも偶然とは思えない。

私にとっては、記憶から抜け落ちてしまった、はるかセピア色に変色した宮参りの日、亡き父と母の心を想い返す日でもある。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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