「座右の銘は?」と聞くと、作家の伊集院静の言葉が返ってきた。
“落ちるリンゴを待っていてはダメだ。木に登ってリンゴを取りに行こう”
新社会人向けに作家が書いたメッセージだが、生徒や教員たちにも言っている。
原之園哲哉さん、64歳。鹿屋市出身。
鹿児島県教育次長、県立甲南高校校長、鹿児島大学大学院教授などを歴任し、この春、鹿児島市の教育長に就任した。学校現場の課題に耳を傾け、教職員をまとめる重責を担う。
さまざまな課題を抱える教育現場。そうした時代を反映してか、教育学部で学んだ学生の4割ほどが教員試験を受けないという。
“先生”という仕事の魅力を改めて見つめ直している。
「いろんなことがある。でも学校には、やりがいがある。働く喜びがある。鹿児島の将来を考えた時に教育は生きていく上のエネルギーだと思う」
若者の自殺が増えていることにも胸を痛めている。
「コロナ禍で仲間との交流が減少している。インターネットがあるが、言語だけでは伝わらないものも大きい。孤独感、孤立感を解消していかないといけない」と話す。
山登りが好きだ。学校で山岳部の顧問をしたこともある。
20代は百名山・槍ヶ岳にも登った。最近は九重山に足を運んだ。
もうひとつ、好きな言葉がある。「“Let’s begin!” 失敗することは多々ある。失敗を恐れずにさあ、始めよう。何度でも、何回でも!」
それぞれが、新しい人生を歩き始める春。
生徒たちに親しまれた先生は、そう言って優しく微笑んだ。