MBCラジオ

「#84 指揮官先頭」風の歳時記

老化を防ぐには、まず歩くこと。ウォーキングに勝る健康法なし。雑誌の特集や友人の医者の勧めを信じ込んで、1日7000歩を目標に、暇をみては歩き始めたのは新型コロナが流行を極めた2020年だった。もう7年目になる。寝る前に、スマートウォッチと、それにリンクしたスマホの万歩計の数字を欠かさず眺めて、ニンマリしたり、しょげ返ったりしているのだから、ほとんど、これはこれで、病気だね。

週末の好天に誘われて、鹿児島市内、祇園之洲近くにある多賀山公園に足を伸ばした。風は、まだ頬に冷たいけれど、日差しはすっかり春のそれだ。園内にたむろする野良猫の群れが目を細め、胡散臭そうにボクのことを眺めている。

この公園の高台に、鹿児島の生んだ名将・東郷平八郎元帥のお墓と銅像が立っている。一礼して、後ろを振り返ると鹿児島湾と桜島が一望でき、まさに海軍提督を祀る地としては最高だ。この日は海上自衛隊の護衛艦らしき2隻が沖に停泊していた。

アドミラル東郷といえば、「指揮官先頭 率先垂範」の例としてよく引き合いに出される。

日露戦争で世界最強といわれたバルチック艦隊を迎え撃った日本海軍の総指揮をとったのが東郷元帥だったことはよく知られている。東郷平八郎は、4,5時間続いた海戦中、旗艦「三笠」のブリッジに立ち続けたという話。鉄の柵しかないブリッジは、一発でも砲撃を受ければ、即死するしかない危険な場所だけれど、東郷元帥は死を覚悟して立ち続けた。自ら率いる日本海軍のどの船からも、ブリッジに立つ東郷元帥の姿がはっきりと見え、その気迫が遠目にも伝わってきたといわれている。

最高責任者が、最前線の最も危険な場所に立つのは士気を鼓舞する意味ではわかるけれど、組織の危機管理からみると、これは、少々、やはり精神主義に過ぎるんじゃないのかな。と、戦後の穏やかな時代に生まれ育ってきたボクなんか、一言、苦言を呈したくなるのだが、 いざ開戦となったとき、東郷元帥は自らブリッジに向かうと同時に、主だった幕僚を船の最も安全な場所に移動させたと伝えられている。自分が戦死した後の指揮命令系統を温存しようとしていたのだから、危機管理の面での配慮はしていたように思えなくもない。

そういえば、太平洋戦争勃発時、連合艦隊の司令長官を務めた山本五十六元帥の言葉に「してみせて 言ってきかせて させてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」という名言がある。この人も指揮官先頭を貫いて、日本軍が苦戦するラバウル視察からの帰り、ブーゲンビル島上空で米軍機の攻撃を受け、戦死している。国民に与える影響を考慮し、しばらくは緘口令が敷かれたことからも、その衝撃の大きかったことがわかる。

ちなみに、山本元帥の残した、もう一つの言葉があるのだが、あまり知られていない。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

働いて、働いて、働いてと5回繰り返した総理の抜き打ち解散、真冬の総選挙が終わった。こちらの指揮官先頭の結末をどう受け止めればいいのか、この国の先行きはどうなるのか。あれこれ思いを巡らせているうちに、いつしか、東郷元帥の銅像を春の夕日が包み込み始めていた。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

関連記事

  1. 大喜利「こんな成人式は嫌だ!どんな成人式?」
  2. 「#13 希林さん」風の歳時記 「#13 希林さん」風の歳時記
  3. 日々是鍛錬
  4. 第11回・12回「ウィズ鹿児島」久保田吉信さん
  5. もう藤の花💜🥰
  6. 1月の月間賞(山下 矢絣 選)
  7. 青だよ!たくちゃん! 8/30のテーマは?!
  8. 8月8日(火)のセットリスト

最新の記事

  1. 「#85 三寒四温」風の歳時記
  2. 「#84 指揮官先頭」風の歳時記
  3. 「#83 カレーはお好き?」風の歳時記

海と日本プロジェクトin鹿児島

PAGE TOP