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「#82 首里城の赤」風の歳時記

2016年以来だから、10年ぶりということになる。仕事のついで、というより、むしろ仕事にかこつけて、どうしても足を運びたかった場所だった。2019年に主な建物がほぼ全焼し、再建が進む沖縄県那覇市の首里城だ。4年前から復元が進められ、工事は最終段階に入っている。

1月も半ば過ぎだというのに、最高気温は20度。風は強かったが、鹿児島でいえば弥生3月の頃の空気のぬるさだろうか。作業用に作られた道路を登り切ると、目の前に中国風の朱塗りの首里城正殿が飛び込んできた。正殿の正面と屋根瓦の両端に鎮座する3mもある大きな龍の飾りは宮殿の守り神で、これも、元の姿に戻っている。縁あって案内してくださった工事責任者の方の話によると、首里城が作られたのは13世紀末から14世紀というから、800年以上も前になる。その後、琉球王朝の中心、王家の居城となり、これまで何度となく火災にあってきた。最近では太平洋戦争の沖縄地上戦で全焼している。

今回の火災から7年ぶりに再び姿を見せた首里城をすぐそばから見上げると、以前、訪れた時の印象より、建物全体の赤い色合いが深くなった感じがする。もっと明るい、ちょうど、本土の神社や鳥居の赤に近い朱色だったような記憶があるのだが…記憶違いだったのだろうか。

責任者の方の話によると、首里城は100年近く前、昭和の初めに一度大修理をしているのだが、その当時、首里城の外壁の色は剥げ落ち、伝説としては「赤い城だった」というのは残っていても、本当の色はわからなかったという。人によっては黒いお城だったという説もあったくらいだ。それを覆したのは100年前の修理に携わった古老の一人の証言だった。「確か、ベンガラの顔料が少し残っていた」というのだ。

ベンガラの色は、暗い赤みを帯びた茶色で、土の中の鉄が酸化して生じた赤錆を焼いて作られる顔料。インドのベンガル地方で良質なものが採れたことにちなんでベンガラと名付けられた。では、そのベンガラは沖縄のどこで採れたのか。この謎を解き明かしたのは、沖縄の北部地域、ヤンバルに住む中学生から届いたある質問だった。

「私たちの集落にある川が赤いんですが、この川は何で赤いんですか?」

この集落では子供たちが、この川を「血の川」と呼んでいるという。担当者が駆けつけると、側溝や山から染み出てくる水に鉄バクテリア由来の油膜のようなものがあって真っ赤に染まっていたという。まさに地産地消、おそらくかつての琉球王朝もこの地元のベンガラを使って首里城の色を生み出していたに違いない。長年の謎だった首里城の赤い色が復活したきっかけが、一人の中学生の素朴な疑問からという、なんともうれしい話だった。

ラジオなので、色合いをお見せできないのは残念だけれど、今年の秋には一般公開される。機会があれば、ぜひ、この褐色を帯びた深い赤の色、私に言わせれば「琉球赤」を見るためにも、足を運んでいただきたいと思う。

この復元工事には全国各地の若い人たちが職人として携わっている。春の日差しを浴びながら、日本の伝統建築、宮大工の卵たちが元気よく育っている現場でもある。  若者たち、なかなか捨てたものじゃない。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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