
放送日:2025年4月25日
雨の季節というと真っ先に梅雨を思うのだが、4月という月もよく雨が降っている印象がある。気象予報士ではないから、その原因はわからないけれど、寒い季節から暑さを感じる季節へ移っていく時期だし、だとすると北からの寒い空気たちと南からの暖かい空気たちが微妙な間合いでせめぎ合っているからなのかな、などと勝手に想像する。
実際、気象庁のホームページで鹿児島市の過去の気象データをみると、確かに、毎年12か月の内、4月は3番目か4番目に雨の多い月のようだ。「晴れたと思ったら降りだし、降りだしたと思ったら止む」を繰り返す定まらない雨が春時雨。もうその時期は過ぎたが、桜の散り初めの頃だったら「花散らしの雨」。「春雨」というと、しとしとと、音もなくいつまでも静かに降り続くイメージだろうか。
「春雨じゃ。濡れてまいろう」…というのは新国劇『月形半平太 』の名セリフ。京都の街角で、主人公の長州藩士・半平太が傘を差し掛けようとする舞妓に向かって語りかける言葉だが、確かに霧のような小ぬか雨なら、傘を差すより、いっそ肌に優しく濡れかかってくる春の雨を楽しむのも悪くない。ちょっとキザ過ぎて、いまどき、そんなことを言う人はいないような気もするけれど、しかし、春ならではのこの風情、わからなくもない。夏の夕立や秋雨、冬の時雨や氷雨では、とても「濡れてまいろう」という気分にはならないもの。
最近は、おそらくボク自身の嗅覚が鈍ったのと、ビルや舗装道路で日ごろの生活空間から剥き出しの土がなくなったためなのか、あまり感じることはないのだが、子どもの頃は雨が降り始めた時に漂ってくるあの独特の土臭い匂いが好きだった。天から降って来る水が匂うはずもなく、たぶん、雨に打たれ、跳ねて騒ぐ土たちの発散する匂いだったのだろう。土というより大地の匂い、もっと言えば、ボクたちの命を支え続けてくれている地球という惑星の体臭そのものといっていいのかも知れない。
「三月の風と、四月の雨が、五月の花を運んでくる」
イギリスの諺だ。3月の風に耐え、4月の雨に育まれて、5月になると一斉に花たちが開き始める。
イギリスの3月は風の月。住んだことがないのでわからないが、「三月はライオンのごとくやってきて、子羊のごとく去っていく」という言葉もあるくらいだから、風の強い荒れ模様のお天気が続くのだろう。そんな3月が去った後、少し寒くて冷たい雨が降っていても、それが、たくさんの花たちを5月に咲かせるのだと思えば、4月の雨がいとおしくなる。
ヤマツツジ、ウツギ、ハナミズキ、スズラン、アヤメ・・・そういえば、鈴なりにぶら下がって咲くエゴノキの白い花も間もなく開き始める。花びらではなく、小さな花そのものが風に吹かれて、そのままフワリと落ちる。いつの間にか、地面に思いのままの白い点が散らばって、これはまるで神の手による点描画にも見える。大好きな花の一つだ。
ヤマボウシ、テイカカズラもそろそろだろうか。
MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。
読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭










