MBCラジオ

「#28 阪神淡路大震災」風の歳時記

早朝のニュース速報で飛び起きた。テレビ画面、空からの、おそらく自衛隊のヘリコプターからの画像が映し出される。未明の薄暗い空にいくつもの黒煙が巨大な狼煙のように立ち昇り、その下に赤い炎があちこちで揺らめいている。大きな街がまるごと蒸し焼きにされている。そんな地獄のような光景に重なるように、ヘリコプターのエンジン音だけが響いている。下界の音は全く聞こえてこない。いま、この瞬間、どれほどの叫び声、うめき声が飛び交い、消防車や救急車のサイレンが鳴り響いていることか。画面は音もなく、想像を絶する混乱と悲痛に包まれた街並みを黙々と映し出しているだけだ。絶望的な光景が空高くから映し出され、それを息を呑むように見つめている私とはいったい何なんだろう。

未明の兵庫県南部を襲った最大震度7の大地震、阪神淡路大震災の死者は兵庫県だけで6400人を超え、負傷者は4万人、家屋の全半壊は24万戸に達し、大正時代の関東大震災以来最悪の地震災害となった。

私が神戸に足を踏み入れたのは1年後のことだった。その頃、まだ阪神高速道路の一部が横倒しになったまま。約5000戸が焼失した長田区は焼け野原の中でようやく復興の工事が進み始めていた。すさまじい揺れと町全体の崩壊、大火災…そこでは人間同士の触れ合い、関わり、ふだんは見えてこない優しさや無残さがあちこちに顔をのぞかせていた。

「人と防災未来センター」に寄せられた体験談を読んでみる。

避難所に用意された公衆電話。遠くの肉親に連絡をとろうとする長い列ができていた。が、誰もが10円玉で1回電話をかけたら列の最後尾に並び直す。こうした被災者同士の思いやりのルールが自然と生まれたという。近所で倒壊の被害を免れた家では「水、出ます。裏に回ってください」「トイレ使用してください」という張り紙が貼り出された。困ったときのお互い様の精神がしっかりと根付いていた。

もうひとつ、避難所での話。体験談を寄せた人の隣には視覚障害の夫婦と小学生の姉と弟が身を寄せていた。ある日、姉と弟の目の前で父親がバッタリと倒れ、そのまま運ばれて行った。翌日、父親が亡くなったことを知らされる。叔父が迎えに来て一家を連れて避難所を立ち去ろうとしたその時、姉と弟は手にしていた牛乳のパックを「残っている人に置いていってあげよう」「早く飲むようにと書いておこう」などと相談を始めたというのだ。大震災に見舞われ、父親を亡くし、悲しみではち切れんばかりであるはずなのに、なんという思いやりのある子供たちだろう…。その優しさに心を打たれていると、しばらくして、学校の先生らしい女性が姿を見せた。これまで気丈に振る舞っていた子どもたちはいきなりその女性の胸に顔を埋めて、ワーッと泣き出した。

これを記した証言者は「私はさっきまでの感動に大きな悲しみが重なって、言葉にはできない思いにかられました。この光景は、決して忘れることができず、いまでもこの姉と弟の将来に幸あれと祈り続けています」と結んでいる。いま、あの姉と弟も40歳前後になるだろうか。

あの日からちょうど30年、今日1月17日が巡ってきた。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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