MBCラジオ

「#14 絶体絶命」風の歳時記

「#14 ダチョウ症候群」風の歳時記

とっちらかって目も当てられない我が家に、いきなり来客の知らせが飛び込んでくる。明日までに仕上げなければならない仕事があったことを、前日の夜になって突然気付く。本命の彼とのデートに向かう途中、自転車で転んで、激しく顔を擦りむいてしまう。放送局のアナウンサーだったら、スタジオに持ち込んだニュース原稿を読もうとしたら、なんと、原稿の中の一枚が抜け落ちていた…などなど。絶体絶命のピンチは、誰にでも一つや二つ、心当たりがある。

 この夏からメディアを騒がせてきた前の兵庫県知事の一件、パワハラ疑惑やオネダリ疑惑、そもそも告発された本人である前知事が、職員からの内部告発が公益通報に当たるかどうかを判断するのも変な話だ。県当局の厳しい告発者探しのあげく、県職員が命を落としたというのに、当の前知事は「道義的責任の意味がわかりません」というのだから、やれやれというしかない。

 この若い前知事の振る舞いをテレビで見ながら、ふと思い出したのは、オストリッチ・シンドローム、ダチョウ症候群という行動パターンだ。

ダチョウは、天敵に追われて追い詰められると、いきなり砂地に頭を突っ込んで、周りの光景から目をそらすようにする。目の前の現実が自分にとって危険だと悟った瞬間、いまの状況を受け止めることができなくなり、砂に頭だけ潜り込ませて、「いま」をやり過ごそうとする。

しかし、頭を潜り込ませて周囲を見ないようにしても、ライオンやヒョウなどの天敵が迫っている事態には変わりはない。当然、餌食になってしまう。いくら「ボクにはそんな事態は見えてません」「ボクにはボクの世界があるんです」と開き直り、現実から目を背けたところで、結局は現実に戻るしかない。たとえ怖くて、不安で、苦しくても「周囲の協力を求めながら」「適度に現実に関わって」「自分自身で現実を変えていく」ことしか道はないのだろう。避けて通れない現実を、目をつぶって、当面ごまかしても、その結果は確実に自分自身に降りかかってくるのだから。

 若きエリートの兵庫県知事に限らない。ボクだって、しばしば、考えたくもない、見たくもない、でも逃れようのないイヤな現実を、とりあえず、見ないようにして、「まぁ、いいか」とやり過ごしている。他人様のことを言う資格はない。

 そうそう、ダチョウ君の名誉のために付け加えると、そもそも、天敵に追われるダチョウが頭を砂地に潜り込ませるという習性はないそうだ。餌を食べるために長い首を地面に降ろしていたり、暑さをしのぐために水分の多い地面に首をくっつける姿が勘違いされたとか。

今日10月4日は、ワールド・アニマル・デー、世界動物の日。つまらない人間世界の話にダチョウ君を登場させて、なんだか申し訳ない気もするなぁ。

MBCラジオ『風の歳時記』
テーマは四季折々の花や樹、天候、世相、人情、街、時間(今昔)など森羅万象。
鹿児島在住のエッセイスト伊織圭(いおりけい)が独自の目線で描いたストーリーを、MBCアナウンサー美坂理恵の朗読でご紹介します。
金曜朝のちょっと落ち着く時間、ラジオから流れてくるエッセイを聴いて、あなたも癒されてみませんか。

読み手:美坂 理恵/エッセイ:伊織 圭

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